河原の夕べ

扶良灰衣

読み切り 散文

河原の堤で男が男を殴り蹴っている。しばらくすると殴っている男は疲れた様子で転がってる男の前で立ち尽くしている。何も聞こえず、辺の草は風に揺れて二人の男はじっとして動かない。その時、転がった男は立ち上がって、立ち尽くす男に近寄った。静寂の中、突然大音量が聴こえたように、どこか頭の付近から、黒い液体が噴いた。立ち上がった男は立ち尽くしていた男を地面に転がして、全く反対の立場になって、男は男を見下した。影が薄くなる時間の沈黙がはっきりとあって、男達は写真のように動かない。何が起こったのか、何も起こらなかったのか、今は分からないが確かめようもない。黙して恐れた、目して語らず。視えていたのは現実か、それとも一人の妄想、二つは違わない、どちらも同じ真実、誰の目が多弁か、こちらは黙して、視えていたのは現実、どちらも真実。区別なんかつかない、迷ってる最中、あるいは同時、視えていたのを信じる、疑いはいらない笑ってしまおう。声が聞こえても、耳を傾けてはいけないなんて、どうやったらできる。どうやったってできやしない。

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河原の夕べ 扶良灰衣 @sancheaqueous

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