第37話 荒船山ダンジョン(2)
「いったん休憩、ちょっと仮眠取る」
『じゃあ、私が見張りするね』
「おねがい」
休憩という判断になったのは、目の前に上り階段があるからだ。
ここまでで結局2時間かかった。
薄暗い中、敵を索敵し、左右のハンモックの一つ一つまで確認していたため、かなり疲労感はある。
考えてみれば、朝から自転車で長距離走ってきたこともあり、活動時間としてはそこそこ長い。
ということで、僕はハンモックに上って揺られてみた。
うん、これはなかなか居心地がいい。
あっという間に僕は睡魔に襲われてしまう。
家の庭でもハンモック吊ってみようかな、と思うぐらいにはよく休めたんじゃないだろうか。
目覚めて時間を確認すると2時間ぐらい経っていた。
『おはよう』
「うん、おはよう。ねえ、ダンジョン内って敵が再ポップしたりしないものなの?」
『するわよ。でも入り口や階段の近くでは基本的には無い。あと、やっぱりCランクぐらいだと時間がかかるからあんまり気にしなくていいわ』
「そうなんだ……」
ということは、上のランクで道中だと休めないということになる。
まあ、そこまで行けるころには僕も町に復帰しているだろうし、そうなれば一人で探索することもないだろう。
「じゃあ、行くか」
僕はエリスに声をかけて、階段を上る。
昔の帆船の階段らしく、はしごと見まがうような急な角度だった。
僕は張られているロープで体を支えながら階段を上りきった。
「ああ、こっちなんだね」
『一応、船としての構造からそんなに離れていないってことね』
上の階はこれまで来た方角に戻るようになっていた。
本当の帆船が実際にこうやって2段に大砲が並んでいるのかはわからないが、まあダンジョンのことだから気にしてもしょうがないだろう。
「あまり変わりがあるようには見えないね」
『でも、層が変わったということは何か変化があるはずよ』
確かにそのとおり。
まだ目覚め間もないので集中はできている。
ぼくは新たな層をすすんでいく。
「アイス・ワン」
氷玉は敵の頭がい骨を砕く、それと同時に僕はナタで敵の攻撃を受ける。
キン、と音がして敵のカトラスが弾かれる。
思った通り、確かに武器は持っているが相変わらず非力なことには変わりない。
裏山ダンジョンのボスに比べれば確実に弱い。
いけそうな気がする。
いや、ここは確実を期そう。
「アイス・ワン」
とどめは氷玉で刺すことにした。
敵を全滅させたことを確認してナタを確認する。
やはり受けた場所に刃こぼれがある。
打ち合ってしまえば当然か……
「帰ったら研がなくちゃなあ」
庭の草刈りに使えなくなっては本末転倒だ。
今のところはなるべく打ち合わせないように注意するくらいだ。
やっぱり、こん棒は使いやすかったのだなあ……
『次、来たわよ、2体』
やはり敵の数は多いな。
さすが2層目だ。
まずは先手。
「アイス・ワン」
いまだに発音なしでは安定しない。が、逆に言えば発音さえすれば、問題なく使えているということで、今はそういうものだとして使っていくしかない。
僕はもう片方の敵の攻撃をかわす。
非力がゆえに、スケルトンは大振りでしか攻撃できない。
今回はスペースが開いていたので問題なく避けられた。
そして時間を稼いだ末に再び「アイス・ワン」。
よし、今回も無傷で切り抜けられた。
「みんなどうしてるんだろうなあ……」
『何が?』
「いや、怪我とかしたら他の探索者はどうしてるのかなって……」
父さんぐらいの前線組になると、即時回復するポーションとか、スキルとしての怪我の治療などがあるだろうが、そこまでではない探索者もやはり怪我をしたら帰るのだろうか?
『ああ、一応B以上だったらそれなりにポーションや軟膏は出るみたいよ』
「じゃあ、それで治療しているの?」
『そうね、即効性はないと思うけど、数時間で傷が治るから休み休みでやっているんじゃない?』
「そうか、そういう意味でも仲間は必要だね」
『B以上に挑むならね』
「当面その予定は無いな」
今はBのことなんて関係が無い。
Cが一人で攻略できるなら、しばらくはそれで力を蓄えるのがいいだろう。
『注意!』
エリスの警告が具体的じゃない? 特殊な敵か?
僕は前方に集中し、異変に気付いた。
「大砲かよっ!」
ちょっと前方の大砲がいつもの尻を見せる形ではなく、砲口を見せており、あろうことかその砲口が動き、こちらの方に向いている。
電波? インダクションでも無理だ。
アイス・ワン? 無理、質量が違いすぎる。
ナタで弾き返せるとは思えず、したがって、打つ手は一つ。
僕は横のハンモックの方に思いっきり飛び込んだ。
一瞬後、ドオオオンと轟音が響き、周囲の天井も床も震える。
『まだ、後一発』
だろうね。轟音が一発分しかなかったし……
再びドオオオンと轟音が響き、まずい、今回はこちら側だ。
あたりのハンモックがちぎれ跳び、天井や床も傷ついたのか、木片が飛び散る。
「うへえぇ」
ちょっと口に何かのかけらが入って苦みを感じたので慌てて吐き出す。
『今なら隙だらけ、いける?』
「……な、何とか……」
ひどい話だ。
だけど、もし次弾装填とかされていたら次はちゃんと避けられるかわからない。
僕はナタを構えてハンモックを引きずりながら飛び出すと、目に見える敵にアイス・ワンを叩き込む。
気を利かせてくれたのか照明を奥に移動させてくれていたエリスのおかげで視界良好。
そして、残っている敵は……2体だけで、すぐに倒すことができた。
「あれ? こんなもの?」
『本当は片側7体で14体いたわよ。大砲の発射でほとんど砕け散ったけど……』
「ああ、なるほど」
作用反作用で、重い大砲の玉を打ち出すということは同じだけの威力で大砲が後ろに押されるということだ。
あの非力なスケルトン船員(たぶん)が扱うにはちょっと荷が重かったのだろう。
「いやあ、しかし大変だったな。こんなのが今後も出てくるんだったらどうすればいいかな?」
『これね……多分扱いとしては敵モンスターじゃなくてトラップよ』
「そういうことか、じゃあそんなに数は出ない?」
『そう思うわ。14体なんて普通にあり得ないもの』
今はその言葉を信じよう。
まだ足に絡まったハンモックをほどきながら、僕は今の一件の負傷を確認するのだった。
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