第28話 夏後半の予定
「そうそう、あの話、エリスはどう思う?」
「ああ、ボツスキルとボツアイテムのことね」
母さんとの話で出てきていた、「ダンジョン探索に役立たないスキルやアイテムは出てこない」ということ。
先の氷玉は明らかに欠陥だったので、ボツにされるのはわかる。
だけど、もしかすると有用なスキルでもダンジョン探索観点で無用とされて、ボツにされてしまったものがあるとすると……
「結論から言うと、それらしいものはいくつかあるけど、今のカナメの状況を改善できるようなものは知らないわ」
「そうかあ……」
残念だ。
「……まあ、でもこのままスキルを鍛えていけば何とか……」
「待って、それって前提があるのを忘れてない?」
「前提……?」
「このままのペースでダンジョンを探索できるの?」
「あ……」
そうだ、近場のすぐいけるダンジョンはすでに探索済み。
「今まで行ったのをもう一回入るのはだめ?」
「あんまりおすすめはしないわね。リソースが貯まっていてあの程度だから、次はもっとショボくなるわよ。ボスまで敵1匹とか、ボス自体いないとか……」
「それは嫌だね」
「だから他のダンジョンを探していたんだけど……1か所何とかなるかもしれないのと、もう1か所ちょっと遠いけど今後につながるのがあるわ」
「どっちが難しいの?」
「多分同じぐらい……だけど後者はそもそも見つけるのが難しいのよね」
「マネージャーの権限とかっていうのは?」
「近づけば何とかなるけど、移動するダンジョンっていうのは難しいのよね」
「移動……動くの?」
そんなダンジョンは聞いたこともない。
「当時も……私が封印するときも苦労したのよ。あっちこっちに移動するから……でも、大体の場所はわかるから、その周辺で網を張るしかないのよね」
「今のダンジョンだけでは遠すぎるってことかあ……」
「そのためにももう1つの方を先に支配しておきたいのよ。移動ダンジョンのある場所の方向だし」
「じゃあそれで決まりだね」
「でも今回はちょっと手ごわいわよ。Dランクの中でも上位になるから……正直交通の便が悪くなければCランクとして公開されていたかもしれないぐらい」
「Cランクかあ……」
世間でいうところの野良。
確かに、練習でクリアされることもあるが、その場合も一人ではない。
まだ、ダンジョン探索が1か月にも満たない初心者の僕が挑んでクリアできるとは思えない。
「意外と強いわよ。カナメは……」
「そうなの?」
「弱いとはいえダンジョン4つ攻略済みというのはそれなりに成長しているの。Cランクでも下位だったら充分攻略可能よ」
「そうなんだ……」
「自分でも信じられない?」
「あんまり実感がないから……」
確かにファーストスキルはそこそこ使えるようになったけど欠点も多いし、せっかく手に入れた2つ目のスキルも役立たずだし、接近戦は体格の点もあって強くない。
知恵を絞ればなんとかなるかもしれないが、力押しができるとは思えない。
何か切り札になるものでもあれば……ちょっとあとで考えてみよう。
「氷玉投げればいいじゃない」
「手がしもやけになるよ」
「まあ、それは置いといて、場所はここね」
PCで地図を表示して見せてくれる。
ここは……なるほど、ちょっと遠いか。
「貸して」
僕は別ウインドウで別のページを開く。
携帯電話会社のサービスエリアの地図だ。僕にとっては外出するための重要な確認事項だ。
それを見比べ、さらに地図を拡大して民家の位置を確認し、そして地図を縮小して通る予定の道が何かへの通り道になっていないかどうかを確認する。
「夏休みだから、思いもよらない交通があるかもしれないなあ」
だけど、お盆期間を過ぎれば社会人はいなくなるだろう。
ダンジョンへの人の流れも考慮して……
「ねえ、Dランク上位って、今までより時間かかるよね?」
「そうね、場合によっては階層があるかもしれない」
ダンジョンは一般的に階層がある。
一般ダンジョンでも10層を超えるし、重要ダンジョンはまだ到達していないが100層を超えるといわれている。
これまではDランクだったので、階層どころか分かれ道もなかったのだが、今後はそうではないだろう。
「……そうか、じゃあ多めに見積もって6時間、休憩も考えると……どう考えても一晩じゃ無理だね」
昼間は人通りがあるかもしれないのでなるべく出歩きたくない。
それに移動に時間を使うと、その分休憩や、場合によっては睡眠も必要になるかもしれない。
ちょっと難しいな……
「ダンジョンを速攻で攻略して、そのあとダンジョンボスのところで休むしかないか……」
「夜に出発、そのままダンジョンに入って、次の日の夜に帰ってくるのね?」
「ダンジョン攻略後って食べ物とか飲み物とか手に入る?」
「水は大丈夫なはず、カップ麺だったら大丈夫だよ。お湯にもできるし……食べ物はちょっと無理ね」
「そうなんだ……」
僕は準備物をリストアップする。
「じゃあ一週間ぐらい後かな……」
「そう……ところで、宿題とかは大丈夫なの?」
「あんなの最初の3日でやり切ったよ」
「そうかあ、優秀なのね」
「別にいい大学に行きたいとかは無いんだけどね……」
今のところは……ね。
僕はダンジョンに深くかかわりすぎている。
前は進学校を志望していたが、もともと僕は母のような学者の道も、父のようなダンジョン探索者専業の道も魅力に思えていた。
果たして、問題が解決した後再び進学への熱意が戻るかどうかは……今は何とも言えないな。
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