第17話 ダンジョンマネージャー

「このSTAって何? PAと何が違うの?」

『STAが耐久、PAが力みたいなものよ。って、やっぱりそっち側に目が行くのね……』

「うん、わかってる。意味ないよね」


 そこに記された数字はもともと僕が持っている腕力や耐久力に対して倍率で強化されるものらしいが、そこには1.01より大きい数字は一つもない。つまり……僕の能力はダンジョンの中においては1%未満の上昇率でしかないということだ。


『1年とかまじめにダンジョン探索してれば、そのうち元の倍ぐらいの力は出るようになるから、まあ気長に鍛えればいいんじゃない?』

「そうなんだよねえ」


 確かに地道に筋トレをするよりも効率はいいかもしれないがその程度だ。

 お母さんが前に言っていたように、意味がないからステータス表示の研究は進んでいないというのは納得できる。


『それよりもスキルね。こっちはスキル名と倍率があるけど……電波は1.012、なかなか優秀じゃない』

「やっぱり接近戦するよりはこっちをメインにした方がよさそうかな?」

『そうね、カナメは体も大きくないし……』

「そうかなあ……」


 お父さんが190cm、お母さんが150(疑惑)cmなので、身長が高くなるか低くなるかはどちらの可能性もあるけど、今のところ165cmあるから平均ぐらいのはずだ。


『身長だけじゃなくて体の分厚さとかね。やせすぎじゃない?』

「それはそうだね」


 今朝の風呂でも思ったことだ。自分でも同意できる。


「やっぱりスキルかあ……」

『リソースがないからこのダンジョンではできないけど、チップが見つかったら積極的に手に入れたほうがいいわね。ゆっくりしか育っていかないから……』


 1日とはいえ、あの濃い探索で、1.012つまり1.2%の成長だ。

 仮に週1で探索しても1年では5割増しにもならないだろう。

 エリスの言う通り早めにスキルを増やしていかないと25年後の世界衝突辞典でも大した威力にはならないだろう。


 チップ、というのはスキルチップと呼ばれる小さい金属片だ。

 これを肌に押し付けるとスキルが身につき、チップは崩れてなくなる。

 ダンジョンの宝物で一番価値があるといわれているもので、そのまま持ち帰って売買もされている。

 高いものになると異次元収納や鑑定になるのだが、これらはタイミングによっては億を超えることもある。

 比較的安いものは一時型水球などだが、これでも数十万円はする。

 ただの水玉で攻撃力はほとんどないし、一時的ということで後に水が残るわけでもないから飲み水としても使えない。

 それでもとっさにモンスターの動きを阻害することができるので全く無用というわけでもないのだ。


『それで、今後の話だけど……他の最下級ダンジョンを攻略していきましょう』

「でも、隠されてるんだよね?」


 有用性が低いということで入口が隠され、普通には入ることができないということだったはずだ。


『そこは、ある程度は私が封印を担当したものがあるから覚えているし、ダンジョンマスターの隠し機能で近隣のダンジョンの場所については知ることができるの』

「そんな機能があるんだね……」

『もともと、私たちが直接ダンジョンを管理するつもりがなかったのよ。だから各ダンジョン内のことはダンジョンマスターに、そして地域のダンジョンをまとめて管理・調整するためにダンジョンマネージャーという存在を置くはずだったの』

「ダンジョンマネージャー? 聞いたことない」


 ダンジョンマスターはまあわかる。

 創作の中でも突然転生してダンジョンマスターになってダンジョンを運営、発展させていくタイプのものは多かったし、なんとなくわかる。

 だけど、彼女が言うようにダンジョンを複数まとめて管理するという存在は想像の外にある。

 だけど、現実に日本は女神がそのダンジョンマネージャーとなって、国内の重要、一般ダンジョンを管理している。

 その意味では元女神のエリスが同じようにダンジョンを複数管理するというのはできそうな気もする。


『まあ、コンビニの店長がダンジョンマスターで、ダンジョンマネージャーが本社のエリアマネージャーみたいなものね』

「そのたとえは……わかりやすいのかそうでないのか不明だね」


 意外と女神は日本の経済にも詳しいということだろうか?

 電子レンジとかIHとかはいまいちピンと来ていなかった様子だけど……


『私もスケルトン以外のダンジョンマスターを支配したいし、そうなれば私の力も増すからカナメの助けも、もっとできるようになるわ。だから……』


 二人の共闘関係は、まずエリスが一つ利益を得た形だ。

 だけど、彼女もスケルトンの体では不便なこともあるだろうし、まだまだ満足しているようには見えない。

 そして僕の方もまだ目的に達していない。

 都会で再び住むためには、もっとスキルに習熟して電磁波の悪い影響を排除できるようになるか、別のスキルでそれを抑えるものを手に入れるしかないそうだ。


 だから、彼女の目的はより多くのダンジョンの攻略。

 僕の目的は成長またはスキルの取得。


「わかったよ。これからもよろしくね」

『ええ、こちらこそ』


 骸骨じゃない彼女の笑顔は、控えめに言ってもとてもかわいいと思って、僕はちょっとドキッとした。

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