第11話 彼の事情

「つまり、どこか適当なダンジョンを奥まで攻略したい……と?」

『その通り! いやー、自分でできればよかったんだけど、さすがに体がないとだめだから誰かについていこうかなと……でもまだみんな最奥まで行くような人は少ないらしくて……』

「そうだね、今年はまだ一回も聞かないね」


 もちろん巨大な重要ダンジョン、どころか一般ダンジョンでもボス、というかダンジョンマスターまでたどり着くのは難しい。

 かつて最前線の探索者の一団が小さめの一般ダンジョンのボスを倒すのが流行したことがあったが、最近はそれも少なくなった。

 確かにボスの出す宝物はそこそこ良いものだが、それは重要ダンジョンの奥に行けばそこら辺の宝箱に転がっているものだから、効率という点で行うものがいなくなったのだ。

 そんなわけで、力のある探索者はもっぱら重要ダンジョンにかかりきりになっている。


 この状況を女神は問題にしていないのか?

 全く問題にしていない。

 実は、ダンジョンから持ち帰れるリソースはその規模に左右されるらしく、一般ダンジョンを完全攻略して持ち帰るリソースよりも、重要ダンジョンで同じぐらいの労力で持ち帰るリソースでは後者の方が何倍も大きいらしい。

 リソースは持ち帰るアイテムやモンスター素材、宝物の価値にも比例するから、重要ダンジョンのほうが何倍も稼げることにもなる。

 ということで、放置していてもモンスターが出てくることが無い一般ダンジョンは、そこを攻略できるほど上位の探索者が訪れることが少なく、したがってダンジョンマスター討伐の頻度も下がる。


『それで、次善の策として、もしかしたら私でも勝てるかもしれないショボいダンジョンを、記憶を頼りに回っていたのよ』


 仮にダンジョンの一般モンスターに憑依しても、絶対的な力の差があるため正面からダンジョンのボスを倒すことはできない。

 だから、できるだけ弱いボスのダンジョンを選び、地形や罠を利用して仕留められないかと研究していたらしい。


「あれ? そのまま奥まで飛んで行ってボスに直接乗り移ったらいいんじゃないの?」

『さっきも言ったように、ダンジョンマスターだけは特別な権限があるから、念のため魅了や混乱、呪詛なんかを無効にしてあるの。憑依も無理ね』

「じゃあどうやってボスに乗り移る気だったの?」

『ふふーん、そこはモンスターの創造主である私であれば、倒した直後にちょちょっと細工をすればいろいろ操作できるのよ』


 結局ボスを自力で倒さなくてはいけないことは変わりない、ということか。


『そんなわけで、ショボいとはいえダンジョン攻略も難しそうかなって思っていたら、あなたを見つけたのよ』

「あ……ひょっとしてさっきからショボいショボいって言っているダンジョンって……」

『そう、あなたが昼間に見に行ったあれね。ということで、あのショボいダンジョン……攻略してみない? 楽勝よ?』

「そうなんだ……というより、僕のことはどうなの? お互いの悩みって言ってたよね?」


 そう、彼女は僕の方にも利益があるようなことを言っていたはずだ。

 僕の悩み、問題と言えばもちろんファーストスキルである『電波』の負の効果だ。

 ファーストスキルはダンジョンの序盤で戦えるものであるはずだが、僕の場合はダンジョンどころではなく日常生活に不便するような状況になっている。

 このスキルのせいで僕は目指した進学先も、友達と一緒のダンジョン探索も、その他地元の友人や両親との都会での生活もすべてあきらめることになった。

 今、父さんはダンジョン奥地のアイテムに、母さんはスキルの研究成果に、それぞれ僕を救う方法がないか頑張ってくれているが、今のところは両者芳しくないようだ。

 目の前にいるのは女神……だった存在。

 強い探索者でも一流の科学者でも思いつかない何らかの解決方法があるのではないか? そう考えて僕は彼女の話を聞いているのだ。


『そうね……大概の悩みはダンジョンを攻略していけば解消するわ』

「そんないい加減な!」

『落ち着いて、まだ私はあなたの悩みが何かすら聞いてないのよ。話してくれるかしら』


 そういえばそうだった。

 僕は怒鳴ったことを詫びて彼女に状況を話す。


『なるほどね……あのスキルかあ……強いから数を絞るってスキル担当が言っていたけどそんな欠点があったのね……』


 どうやら強いようだ。

 全くそんな感じはしないが……


『でも、すべてのスキルは習熟していくとオンオフを含めて調整ができるようになるよ。だってそうじゃないと『怪力』の人はダンジョン内ではコップすら持てないことになるし……そのあたりの調整は間違いなくやっている』

「それが本当ならいいんだけど……」


 信じて良いものか……

 少なくとも、ダンジョン作成にかかわった女神であり、『電波』のスキルについても思い当たるぐらいには事情通だ。

 でも、本当にスキルに習熟するぐらいで状況が良くなるのだったら今までの2人はもっと早く社会に復帰できているはずだ。

 そのあたりのことを話してみると、エリス・ベルは意外そうな顔をした。


『あれ……そうなの? せっかく強いんだからもっとバリバリやってるもんだと思ってた』


 そうか、強いのか……本当に?


「あんまり強い感じはしないんだけど……」

『そんなことないよ。なんか仕組みはよくわからないけどバーンと敵にぶつけてみたら倒せるから。ほら、ファーストスキルってそういうものだから』

「ああ、そんなことは聞いたことがあるね」


 ファーストスキルは戦いに不慣れな一般人にもモンスターを倒せる手段を与えるものだ。

 だから基本的には武器系、武術系だったら体の動かし方が半自動的にわかるというし、魔法系、能力系だったらそのまま発動したのを敵にぶつければいいらしい。


『まあ、とりあえず二人の未来のために、明日にでもダンジョンに行きましょ?』

「日付的にはもう今日だと思うけどね……うん……わかった、準備するよ」

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