第9話 地元選挙区事務所に到着する

 早朝、関越道を一目散に走る『黒の大型公用車(アルファード)』。

外には一面の田園(上毛平野)が広がる。

土屋は地元群馬の選挙区事務所に向かっている。


車内に流れるクラッシックの名曲。

するとスマホ(アイポン)からの「呼び出し音」。


 「チッチキチー 、デンワダゾー・・・」


土屋は背広のポケットからスマホを取り出す。

熊川からである。


 「おはようございま~す」


熊川の眠そうな声。


 「何やってんだ~」

 「あッ、お疲れ様です。運転中です」

 「分かってる、バカ。疲れて何かない。起きたばっかりだ」

 「あ、すいません」

 「・・・今、何処だ」

 「今ですか? え~と・・・」


土屋はカーナビを見る。


 「群馬に入った様です。たぶん・・・あと三十分位で到着するかと思います」

 「よ~し。当分オヤジの運転手だ。逃げるなよ。俺もその内行く!・・・カモ知れない」

 「え?」


 地元『片山ビル(法律事務所)』の駐車場に到着する。

土屋はカバンを手に車から降りて来る。

すると隣に白の軽バン(ハイゼット)が停まる。

車から中年の女が降りて来る。

名前を中條敏子(ナカジョウ・トシコ、事務員・片山の姪)と云う。


中條は、


 「あら? もしかしてツッチー?」

 「ツッチー?」


やけに馴れ馴れしい女である。

土屋は丁寧に、そして堂々と、


 「おはよう御座います。東京事務所から応援で来た、土屋政治です。宜しくお願いします」

 「私は中條。ヨロシク」


荷物を降ろし始める中條。


 「なに見てんの。手伝って」

 「えッ? あ、ハイ」


土屋は軽バンから荷物を取り出す。


 片山ビルは旧式鉄筋三階建。

一階は駐車場。

駐車場には地元使用の黒のセダンが一台と軽乗用車、軽トラ、自転車が数台、バイクと一輪車・スコップが数本、選挙用の残った立て看板が壁に立て掛けてある。

周囲には道を隔(ヘダ)てて警察署と消防署、コンビニ(ローソン)が並んでいる。


事務所の階段で中條が荷物を抱えながら、


 「あれ? 青木さんはどうしたの?」

 「青木さん? あッ、青木さんは糖尿で検査入院しました。」

 「あら~、やっぱりねえ。先生の運転手て皆んな入院しちゃうのよ。ツッチーも気を付けてね」

 「えッ? あ、はい」


中條は二階のドアーを開けて荷物を置く。

土屋もそこに荷物を置くと、


 「あッ、それは三階」

 「え? あ、分かりました」


 三階。

右ドアーに「事務所」。

左ドアーに「応接室」の差し札が。

土屋は荷物を抱え「事務所」のドアーをノックする。


 「コンコン」

 「はーい」


中から気だるい声が。

土屋が荷物を抱えてドアーを開ける。


 「おはようございます」


と、左側に受付が。

受付には老婆が座って居る。

片山ヨネ(片山の義理の祖母)である。

ヨネはメガネをずらし上目使いで土屋を見た。


 「? どちら様 ですか」

 「あ、すいません! 東京事務所から来ました土屋政治です」

 「ああ、助っ人(スケット)ね」

 「え? あ、ハイ」


ヨネは土屋を見詰めて、


 「あら~、ちょっとアンタ。良い男じゃない。そうだ! 文子(片山の妻)と一緒に婦人部を廻ってもらおうかしら」


荷物を抱えた土屋は突然のヨネの対応に、


 「フジンブ? あの~、この荷物は?」

 「ニモツ? あ~あ、パンフね。それは一階の倉庫よ」

 「え!」


そこにスマホの呼び出し音。


 「チッチキチー・デンワダヨ」


土屋はポケットからスマホを取り出す。


 「はい。モシモシ、土屋です」


熊川である。

惚けた声で


 「何やってんだ~」

 「事務所に着きました」

 「応接に行け。オヤジが待ってるぞ。それから婆さん(ヨネ)から本日の予定とスクラップを貰って行け。あ、オマエ点数残てるよな」

 「テンスウ?」

 「免許だよ」

 「メンキョ? ああ、ゴールドです」

 「ゴールド! 格好良いね~え。早く行け」

                          つづく

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