第7話 また秘書が消えた(逃げた)

 財務省の正門階段を、熊川と土屋が走って下りて来る。

熊川がタクシーに乗り込む。

土屋も後を追いかけてタクシーに飛び込む。


 「林サン、次、国交省!」

 「はい」


熊川は土屋を見て、


 「何時だ」

 「十時五十分です」

 「・・・土屋」

 「ハイ!」

 「マッチはよせ」

 「ハ?」

 「あんな偉い人の前で居酒屋のマッチでチャッチャやられたらウチのオヤジが凄く貧相に見られる」

 「あッ!・・・ハイ」

 「ああ見えても一応は『財務』の副大臣に指名されてるんだからな」

 「すいません。僕、タバコやらないもんで」

 「オマエに『秘書の三点セット』を教えてやろう」

 「エ? そんなモノ有るんですか?」

 「覚えておきなさい。ライター・クツ・ベルト! なんぼ銭が無くても見える所には良い物を! 格好良くな」

 「ホストクラブみたいですね」

 「なに?」

 「え? いや、ハイ! 勉強になります」

 「おい、松永に電話」

 「ハイ!」


土屋はポケットからスマホを取り出し、


 「もしもし、土屋です」


松永の声がスマホから漏れる。


 「あッ、土屋さん? お疲れさまです」

 「こちらこそ」 

 「は?」

 「あの、これから国交省に行きます。何か有りますか?」

 「それが十三時からの『国防を考える会』ですが本人に確認した所、やっぱり『出席せず』です。それから熊川さんに代ってくれますか」

 「ハイ、ちょっとお待ち下さい。・・・熊川さん、松永さんが」


土屋はスマホを熊川に渡す。

熊川は土屋のスマホを見て、


 「オマエ、良い物を使ってるな・・・。14か?」

 「いえ、13です。レンズが二つですから」


松永の声、


 「もしもし、熊川さん。モシ・・・」

 「ハイヨ~! どうした?」

 「またコンセンしたかと思いましたよ。あの~・・・、実は青木さんと連絡が取れないんです」

 「取れない? ・・・誰が運転してるんだ?」

 「本人(代議士)みたいです」

 「ホンニン?」

 「ハイ。さっき連絡を取ったら本人の声で『ウルサイ、運転中だ』 って言ってました」


熊川は驚いて、


 「え~えッ! で、十一時十五分の陳情団は?」

 「会館に待たせてあります」


熊川は舌打ちをして、


 「・・・またか・・・分かった。すぐ戻る」


熊川はスマホを土屋に渡す。


 「どうかしたんですか?」

 「林サン! わりーけど議員会館の第一に変更だ」

 「え? ・・・はい」

 「何か遭ったんですか?」

 「うん? また、居なくなった」

 「イナクナッタ?」

 「運転手だよ」

 「えッ! 青木さんが?」

 「あのオヤジには困ったもんだ。あの性格は一生、治んねえな」

 「で、今は誰が運転してるんですか?」  

 「本人だよ~、ッたく。また車ん中で『魚売り』でもやったんじゃねえか? おい、計画は変更だ。オマエは十三時の党本部! 俺は陳情団を連て国交省に行く。それから十八時の「岸田先生の財政研究会パートツー」はオマエが代わりに行って来い。俺との同行は、今日は終わり! ほんとに面倒見切れね~よ」

 「アノ~・・・」

 「何だ!」

 「その間、僕は」

 「そんな事は自分で・・・」


熊川は土屋の顔を睨んで溜め息を吐き、


 「・・・中堅のゼネコンでも廻って当選の挨拶でもして来い」

 「え~? 僕、会社の場所が分からないですよ~お」


熊川は土屋をキツイ目で睨(ニラ)み、


 「本屋で四季報でも買って来いよ」

 「シキホウ?」

 「オマエそんな事も・・・。アイポン13のグーグルで調べればみんな出てるよ」

 「あ~、そうか。・・・分かりまた」


土屋は心細そうに答える。

                          つづく

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