風刺コメディ『ドラマ・第二秘書』縦書き

第3話 第二秘書の仕事とは

　応接室のドアーが開いている。

熊川憲護（第一秘書・政策秘書）が上座の代議士用ソファーに深々と座っている。

採用された土屋がソファーに小さく座っている。

傲慢で上から目線の熊川が、

　「で、土屋君。前回の面接の続きだが君はジバン、カンバン、カバンと云う言葉を聞いた事があるね」

　「は？」

　「 ハって知らないのか？」

　「いや、聞いた事は有りますけど」

　「ならハイと答えなさい」

　「あ、はい」

熊川は土屋を睨（ニラ）んで、

　「昨今はその三文字以外にメディア、いわゆる媒体の活用が有る」

　「ああ、SNSですね」

　「？　何だ、その答え方は」

　「あッ、すいません」

　「・・・キミは理屈っぽい性格だろう」

　「いえ、あッ、まあ。はい」

　「？　どっちなんだ」

　「あッ、いや、はい」

怪訝（ケゲン）な顔の熊川。

　松永笑美（事務担当兼秘書）が欅（ケヤキ）の盆に「お茶・コーヒー」を載せて、開（ヒラ）いたドアーをノックする。

　「コンコン。失礼します」

熊川は松永を見て、

　「おう、松永くん。キミにも紹介しておこう。土屋だ。今日からこの事務所でバリバリ働いてもらう。なッ！」

　「バンッ！」

熊川はテーブルを隔て中腰に成り、小さく固まって座る土屋の背中を力強く叩き、『気合い』を入れる。

土屋は一瞬、前のめりに。

急いで態勢を整え『起立』する土屋。

　「あッ、土屋です。宜しくお願いします」

松永は笑顔で、

　「松永です。宜しくお願いします。頑張って下さい」

松永はテーブルの上にお茶、コーヒーを置いて軽く会釈して応接室を出て行く。

土屋は松永の『後姿』に見惚れている。

　「おい、どこを見てる」

　「あッ、いえ、まあ」

　「どっちだッ！」

　「まあ」

　「マ～ア？」

熊川は呆れた顔で土屋を見る。

　「・・・君はお茶かコーヒーか？」

　「あ、はい。お茶で・・・」

コーヒーカップを取り、ブラックでコーヒーを一口、口にする熊川。

　「・・・旨い。君も飲め」

　「え？ あ、はい。頂きます」

土屋は湯呑みを口にする。

すると熊川は、土屋を見て、

　「君の応え方は時間が掛かるな」

　「は？」

　「ハ？ ではない。ハイだ」

　「え？ あッ、はい」

熊川は更にキツい口調で

　「声が小さい！ アもいらない！」

　「ハイッ！」

　「・・・出来るじゃないか」

土屋は熊川をそっと覗（ノゾ）き、

　「ただ・・・」

　「タダ？ ・・・何だ」

　「これからの政治はシッカリとした国民への説明責任が必要じゃないかと・・・」

　「うん？ 裏金の件か・・・。君は出馬したいのか」

　「いや、そんなぁ～」

　「ウンな事は国民が考える事だ。秘書はメ・カ・ケ！」

　「メカケ？」

　「メイシ、カバン、ケジメ！ 『メ・カ・ケ』だ。余計な事を考えないでハイハイと答えていれば良いッ！」

　「あ～あ、それでメカケですか。なるほど」

　「ナルホド？ 何だその応え方は」

　「あ、すいません」

　「スイマセン？」

土屋は小声で、

　「・・・はい」

　「声が小さいッ！」

　「ハイッ！」

熊川はまたコーヒーを一口、口にする。

　「・・・君は議員秘書の仕事を知ってるか？」

　「ハイッ！ 分かりません！」

　「うん？ ・・・うん。まあそれで良い。・・・議員秘書の仕事とは、陳情処理・繋（ツナ）ぎ役。あとはケアー」

　「ケア～？」

　「ケアーを知らないのか？ 早稲田を出てるにしちゃボキャが不足してるな。ケアーとは『世話』だろう」

　「そうです」

熊川は真顔になり、

　「この最後の『ケ』にはケジメ以外にもう一つの『裏毛』がある」

　「ウラケ？」

　「それがケアー、世話ヤキと聴き役だ。議員の鬱憤（ウップン）のハケグチッ！ 簡単に言うと『怒鳴られ役』。自分の人格なんか吹っ飛んじまうぞ」

　「えッ、そんなに怖いんですか」

　「別に怖くは無い。ただ、・・・『ウルセー（うるさい）』んだ」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく