転生おじさん、憧れの探索者学校に入学してみたら一人だけレベル0でぼっち劣等生に。でも魔剣に呪われたのでちょっとダンジョン攻略してみます。

ダイシャクシギ

第1話 レベル0

『レベル0 スキル:なし ジョブ:なし 魔力:-』


 昨日と同じ測定結果が書かれたその紙をぐしゃぐしゃに握りしめる。

 また、レベルが上がらなかった……


「天野ぉー。今日こそはレベルが上がったかぁー?」

「猿田先生……」


 かけられた野太い声の方へ振り向く。

 ジャージの上からでも分かる鍛えられたガタイとやや飛び出た腹。


「すいません……今日もレベル0のままでした……」

「そうかぁー。オリエンテーション最終日までレベル0だったのは史上初だな。がはははは」


 の先に広がるダンジョンと呼ばれる異空間。

 そこを探索する適性がある者を育てる探索者学校。

 入学早々に行われる新入生オリエンテーションで、俺たち新入生はダンジョンに放り込まれた。

 第一ステップとして初期スキルが得られるレベル1まで。

 そしてスキルに応じてコースを分け、ジョブが得られるレベル5まで。


「しっかし、そんなにレベルが上がらんとはなぁ。ちゃんと大鼠ラージラットを倒してるか?」

「はい……」


 ダンジョンの浅層でモンスターと呼ばれる怪物がいた。

 それを俺たちは支給された長い棒で叩き殺した。

 引率の先生たちはレベリングと呼んでいた。

 まるでゲームのようだった。


「猿田先生。回収してくる魔石からしても、天野くんは毎日10匹以上は倒しているはずですよ」


 猿田先生の大きな笑い声が聞こえたせいだろうか。

 若い女性がやってきてフォローしてくれた。

 引率の一人である七尾先生だ。


「天野くん。レベルの上がりやすさは個人差があるから……」

「……はい」


 個人差、と言う程度なのだろうか。

 新入生の9割以上は初日でレベル1になっていた。

 数人がかりで何度か大鼠を袋叩きにしただけで、だ。

 初日に上がらなかったのは要領の悪そうな数人と俺だけ。

 そして二日目には俺以外の全員がレベル1になった。


 以来、俺一人だけが第一ステップを続けている。

 大鼠を探し歩き、毎日10匹以上も叩き殺し続けている。

 10日間の全日程、ずっと。


「七尾先生、変な期待を持たせないでください。レベル0のままじゃ探索者なんて出来ない。天野、お前は探索者に向いていない」

「それは……」

「おとなしく、探索者以外の道を選んだ方がいい」





 沈んだ気持ちのまま、とぼとぼと寝泊まりする天幕のあるエリアへと向かう。

 周囲を歩く楽しそうな新入生たち。

 スキルやジョブに関して楽しそうに話す声が胸をざわつかせる。

 なんで、俺だけ……

 そんな思いと共に、やっぱりという気持ちも少し湧いている。


 一つだけ心当たりがあった。

 それは、俺が前世の記憶を持っていること。

 名前や地名などはもはや曖昧だが、普通の会社員として働いていた。

 人手不足で徐々に忙しくなり、押し寄せる特急案件で徹夜が続いた。

 そして移動中に視界が歪み、自動車らしきブレーキ音が聞こえた。

 それが最期の記憶。

 その前世ではダンジョンも、魔法も存在しなかった。

 おそらくこことは別の世界だったんだろう。


「お~い、天野~! 今日こそレベル上がったのかよ~」


 嗚呼……また来た……

 明らかなあざけりを含んだ声。

 レベル0という明らかな劣性は集団の中でも目立つ。

 15歳という子どもたちの中で、それは簡単にいじめへと繋がる。

 レベルも上がり、スキルやジョブを得て調子に乗っている連中が出来の悪い俺をターゲットにすることに躊躇ちゅうちょなどするはずもない。


「おい! 聞こえねぇのかよ! 返事しろよ!」

「聞こえてるよ……渡辺くん……」

「聞こえてんならちゃんと返事しろよ! どんくせぇな! そんなだからレベルも上がらねぇんじゃねぇのか? ぎゃはははは」

「「「ぎゃははははは」」」


 彼は新入生の中でもいち早くレベル5に到達し、有力な戦士系のレアジョブを獲得したらしい。

 見るからに強力そうな剣を今も背負っている。

 学校からの支給ではなく私物だそうだ。

 家族がプロ探索者をやっているとか。

 すでに周囲に取り巻きもできており、王様か何かのような振る舞いだ。


「で? どうだったんだよ? 流石に今日は上がったんじゃねぇのか?」

「まだ……レベル0だったよ……」

「はぁ~? もう最終日だぜぇ? 素質なさすぎじゃねぇ~?」

「「「ぎゃはははははは」」」


 前世には存在しなかった魔法やスキル、ダンジョン。

 それらの存在を知ったときからひどく心惹かれた。

 あるきっかけでダンジョンに入る適性があることも分かり、同時に探索者になるのが目標になった。


「おい! どうしたぁ? 聞こえねぇのかぁ?」

「ぇ……あぁ……」

「せっかく入学前の体力テストでは俺とトップ争いをしてたってのに、レベルが上がらねぇんじゃな~」


 自分なりに努力もしてきた。

 目標に向けて身体だって鍛えてきた。

 スキルや魔法についてだって可能な限り調べた。

 絶対に探索者になって活躍できると思っていた。

 それなのに……

 俺だけレベルが上がらないってなんだよ……


「えっと……体力テストは……結局、俺が一位だったよね……」

「あぁ!? うるせぇよ! もうそんなのどうでもいいんだよ!」


 軽く小突かれるだけで大きくよろけてしまう。

 レベル上昇でブーストされた渡辺くんの身体能力と、全く変わらぬ俺の力。

 入学前なら俺の方が強かったくらいなのに。

 こんなにも大きな差になってしまった……


「もうこれだけの差ができたんだ! いつまでレベル0のまま学校にいる気なんだよ!」

「ぇ……? まだ入学したばかりだよ?」

「あぁ!? ここは探索者を育てる学校だぞ! ずっとレベル0の無能が探索者になれるわけねぇだろうが!」

「っ……」


 猿田先生にも言われた否定の言葉。

 渡辺くんと取り巻きはゲラゲラと笑っている。

 周囲の同級生たちも目を逸らすばかり。

 臭い物に蓋をするかのように。

 腫れ物にでも触るかのように。


「レベルの上がりやすさは……個人差があるから……」

「はぁぁ? お前、そんなの真に受けてるのかよ? レベル1になるのに10日以上かかってるやつなんて聞いたことねぇんだよ! お前は探索者になれないんだよ!」


 俺だって分かっている……

 認めたくないがこのオリエンテーションの間にずっと実感させられている。

 レベル1にこんな上がりづらい記録なんて、見たことがない。

 俺はこのままずっとレベル0なのか?

 ずっと憧れていた探索者を諦める?

 才能がない?

 俺は、何のために……

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