俺だけレベルアップしない世界 ~探索者学校の劣等生ですが魔剣の力でダンジョン攻略しちゃいます~

ダイシャクシギ

第1話 レベル0

『天野伊織 レベル0 

 ジョブ:なし スキル:なし 魔力:-』


 簡易机に置かれた鑑定機から出てきた測定結果紙。

 昨日と同じ測定結果のそれを震える右手でぐしゃぐしゃに握りしめる。


「また、レベルが上がらなかった……」


 薄暗い洞窟ダンジョンの中が更に暗くなったように感じる。

 ダンジョンに入りはじめてこれで10日。

 俺だけが、ずっとレベルが上がっていない……


「天野ぉー。今日こそはレベルが上がったかぁー?」

「猿田先生……」


 かけられた野太い声の方へ振り向く。

 引率の猿田先生だ。

 新入生の約半数、約40人の班を担当している。


「すいません……今日もレベル0のままでした……」

「そうかぁー。オリエンテーション最終日までレベル0だったのは史上初だなぁー。がはははは」


 猿田先生は俺の背中を無遠慮にバシバシと叩く。

 がははは、じゃねぇよ……


 世界中に突然現れた誰も見知らぬ

 その扉の先に広がるダンジョンと呼ばれる異空間で果てなき財宝を、資源を求めて探索をする探索者。

 そんな探索者たちを育てる為、各地に学校が作られている。

 探索者学校、そう呼ばれる育成機関である。 


 4月初旬。

 新入生を対象にオリエンテーションが開催される。

 学校の管理する初級ダンジョンに新入生を放り込み、レベリングが行われるのだ。

 第一ステップとして初期スキルが得られるレベル1まで。

 そしてスキルに応じてコースを分け、ジョブが得られるレベル5まで。


「しっかし、そんなにレベルが上がらんとはなぁ。ちゃんと大鼠ラージラットを倒してるか?」

「はい……」


 ダンジョンにはモンスターと呼ばれる怪物がいる。

 俺たちは支給された長棍棒でそのモンスターを叩き殺した。

 まるでゲームのようだった。


「猿田先生、変なこと言わないでください。回収してくる魔石からしても、天野くんは毎日10匹以上は倒しているはずですよ」


 猿田先生の大きな笑い声が聞こえたせいだろうか。

 若い女教師が近寄ってきて、話しかけてくる。

 引率の一人である七尾先生だ。

 首元までピシッと閉めた無骨な探索用服を着ていが、その非常に女性的な身体のラインは隠せていない。

 赤みのある明るい茶色の髪を肩にかかる程度まで伸ばし、少し童顔気味な顔はとても整っている。


「天野くん。その……レベルの上がりやすさには個人差があるから……」

「……はい」


 個人差、と言う程度なのだろうか。

 新入生の9割以上は初日でレベル1になっていた。

 数人がかりで何度か大鼠モンスターを袋叩きにしただけで、だ。

 初日に上がらなかったのは要領の悪そうな数人と俺だけ。

 そして二日目には俺以外の全員がレベル1になった。


 以来、俺だけが一人で大鼠を狩り続けている。

 ダンジョンを歩き回り、何匹も何匹も叩き殺し続けている。

 10日間の全日程、一人きりで、ずっと。


「七尾先生ぇ、変な期待を持たせないでください。レベル0のままじゃ探索者なんて出来ない。天野、お前は探索者にはなれない」

「それは……」

「おとなしく探索者を諦めろ」





 沈んだ気持ちのまま、とぼとぼと天幕へと戻る。

 宿泊訓練も兼ねる為、ダンジョン内に天幕を張って過ごしている。

 天幕周辺を歩く楽しそうな新入生たち。

 スキルやジョブに関して楽しそうに話す声に胸がざわつく。


「なんで、俺だけ……」


 だが、やっぱりという気持ちもわずかながらある。

 たった一つの心当たり。

 それは、俺がおそらく転生者であること。


 あやふやになりつつあるが、俺には前世の記憶がある。

 まぁよくある話だ。

 下町の工場で働き、人手不足で忙しくなって過労で倒れた。

 最期にブレーキ音が聞こえたので恐らく交通事故だった。

 その前世ではダンジョンも、魔法も存在しなかった。

 おそらくこことは別の世界だったんだろう。


「せめてチートな特典でもあればな……」


 残念ながら神様らしいものには特に会わなかったし、こちらで意識がはっきりしたのも7歳頃とスタートダッシュを決められる程ではなかった。

 だが魔法やスキル、ダンジョンを知ったときから、それらにはとても憧れていた。


「ダンジョンに入れたのだけは、感謝してるけど……」


 ダンジョンに入れるかは生まれもって決まっているらしい。

 幸い、俺は入れる側だった。

 だが調子に乗り、愚かにもダンジョンに迷い込んでしまった。

 モンスターに左腕を喰われかけ、己の無力さに深く絶望した時、助けに来た探索者がモンスター絶望を一瞬で斬り殺す消し去るのを見た。

 そのときの探索者の強さが、幼い俺の目に焼き付いた。

 今もまだ、焼き付いている。

 強くなって探索者になりたい。

 それが俺の目標になった。


「お~い、天野~! 今日こそレベル上がったのかよ~」


 飽きもせず、また来た……

 明らかなあざけりを含んだ声。

 レベル0という明らかな劣性は集団の中でも目立つのだろう。

 15歳という子どもたちの中で、それは十分なきっかけとなる。

 レベルも上がり、スキルやジョブを得て調子に乗っている連中が出来の悪い俺をターゲットにすることに躊躇ちゅうちょなどするはずもない。


「おい! 聞こえねぇのかよ! 返事しろよ!」

「き、聞こえてるよ……渡辺くん……」

「聞こえてんならちゃんと返事しろよ! どんくせぇな! そんなだからレベルも上がらねぇんじゃねぇのか? ぎゃはははは」

「「「ぎゃははははは」」」


 笑いながら渡辺とその取り巻きに腹を殴られ、足を蹴られる。

 毎日、これが続いている。

 服の下は、もうあざだらけだ。


「おい、どうしたよ? まだ寝てんじゃねぇぞ! 無能!」

「そうだよ! まだ渡辺さんが話してんだろ! 雑魚が!」

「ちゃんと聞けよ! このカス!」


 取り巻きたちが俺を殴るのをニヤニヤと眺める渡辺。

 こいつは新入生の中でもいち早くレベル5に到達し、有力な戦士系のレアジョブを獲得したらしい。

 見るからに強力そうな剣を今も背負っている。

 家族がプロ探索者をやっているそうだ。

 取り巻きを引き連れ、王様のような振る舞いだ。


「で? どうだったんだよ? 流石に今日は上がったんじゃねぇのか?」

「まだ……レベル0だったよ……」

「はぁ~? もう最終日だぜぇ? 素質なさすぎじゃねぇ~?」

「「「ぎゃはははははは」」」


 痛みと空しさで胸がからっぽになる。

 魔法やスキル。探索者。強さ――

 憧れていた、はずなのに。


「おい! どうしたぁ? 聞こえねぇのかぁ?」

「ぇ……あぁ……」

「せっかく入学前の体力テストでは俺とトップ争いをしてたってのにな~。レベルが上がらねぇってんじゃな~」


 身を屈め、うつむく俺の顔を下から覗き込んでくる渡辺。

 醜悪しゅうあくな笑みを浮かべて。


 俺だって、自分なりに努力もしてきた。

 目標に向けて身体も鍛えてきた。

 絶対に探索者になって、あの人のように強くなれると信じていた。

 それなのに……


「そう……だね……」

「はっ! もうそんなの昔の話、どうでもいいけどな!」


 渡辺に片手で胸を軽く小突かれる。

 たったそれだけで大きくよろけて尻もちをついてしまう。

 レベル上昇で向上した渡辺の身体能力と、この10日間全く変わらぬ俺のそれ。

 入学前なら俺の方が強かったくらいなのに。


「もうこれだけの差ができたんだ! ずっとレベル0のくせにいつまで学校にいる気なんだよ!」

「まだ……入学したばかりだよ……」

「あぁ!? ここは探索者を育てる学校なんだよ! ずっとレベル0の無能が探索者になれるわけねぇだろうが!」

「っ……」


 猿田先生にも言われた否定の言葉。

 渡辺と取り巻きはゲラゲラと笑っている。

 周囲の同級生たちも遠くで目を逸らすばかり。


「レベルの上がりやすさは……個人差があるから……」

「はぁぁ? お前、そんなの真に受けてるのかよ? レベル1になるのに10日以上かかるわけねぇんだよ! お前は! 探索者にはなれない! 一生雑魚のままなんだよ!」


 俺だって分かっている……

 このオリエンテーションの間にずっと実感させられている。

 ダンジョンに入れるのにレベルが上がらない人なんて、見たことがない。

 俺はこのままずっとレベル0なのか?

 ずっと憧れていた探索者を諦める?

 強くなることを、諦める?

 俺は、何のために……



――――――――――――――――――――

タイトル回収まで時間がかかり申し訳ありません。

魔剣は4話ごろからの登場となります。


よろしければ読んで頂けると嬉しいです。


執筆のモチベアップになりますので、よければフォローと★★★をよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾



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