一次選考

「あーっ!! 待ってる時間しんど過ぎたなぁ!!」

『毎回言ってたよなソレ。アタシはドキドキして楽しかったけどさ!』

「やっぱ陽キャは違うなオイ」

『誰が陽キャだ』


 今日は待ちに待った一次選考の発表日だ。

 いつもは午後九時から作業通話をしているのだが、今日ばかりは発表時刻の午後六時前に通話を開始した。


「マジでさー、応募した瞬間に選考発表やってくんねぇかなー。poypoyのスクラッチチャンスみたいな感じでさー。『入賞! イエーイ!』って」

『どういうシステムだよ……人間がやってるんだから無理だって』

「わかってるけどさ〜……お、結果が出たみたいだ!」

『どれどれ〜?』


 例年に比べて通過者が少ない……気がする。

 嫌な予感がしながらも、俺は自分の名前を探す……瞬間、栄華のペンネーム『えいみん』が目に入って。

 その後必死に自分の名を探したが、無かった。


「おめでとうっ! 栄華っ!」


 もしも自分の作品だけ落ちて、彼女の作品だけ通ってたらどうしようと、常々考えていた。

 一緒に通ったときに俺がどんなことを言うか、栄華だけ落ちた時に何と言うか、ソレは容易に想像がついたが、このパターンだけはどうなるか想像もつかなかった。

 ……俺は自分の作品が栄華のソレよりも面白いと思っている。そりゃそうだ。そうじゃなきゃ応募できるものか。

 なんなら、落ちた今だって思っている。俺の作品だって負けていないと。

 けれど、選考は無情にも進む。

 作品の優劣を決めながら。

 だから、が来たら、俺は落ち込むものだと思っていた。場合によっては絶望して、死のうと思っていた時期に逆戻りするものだと。

 けれど、俺の心は晴れやかだった。


 悔しい、その気持ちはあれど、それ以上に共に頑張った相棒の成果が認められたことが純粋に嬉しかった。


『ありがとう! 一次選考はぶっちゃけ運だと思ってるからさ……だから』

「運も実力の内だろ? よくやったよお前は!」

『……へへっ、ありがと〜!』

「それはそれとして今日だけは作業無しでCPEXに付き合ってくれ〜! 常洲とこすさんも呼んでさ!」

『オッケー!』


 一人で応募して同じ結果になっていたとしたら……いや、俺は栄華がいなければ挑戦すらしなかっただろう。


 ……俺は公募の熱量のままに、三週間でもう一作を書き上げた。

 一発勝負のウェブ小説コンテスト用の作品で、結果が出るのは奇しくも幻想大賞の二次選考の日と同じなのだが、はてさて。

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