02_06_ちっちゃい同級生が現れました

 ディラン先輩たちと入れ替わるように、今度は教師の方々がやってきました。

 先生方は簡単な挨拶と、学園生活における諸注意事項についての説明を行ったのち、学園内の案内をしてくださいました。

 とはいえ、広大な敷地を誇るエリエステス学園。

 ひととおりの施設や設備の見学だけでも、かなりの時間を要します。

 終わった頃には、陽はすでに西の空へと傾いていました。

 これで今日の予定はすべて消化し、もう解散してよいとのことです。

 生徒は各自、引き続き学園の中を見て回るなり、寮の自分の部屋を確認するなり、門限まで自由に行動していいということでした。


「あー、肩こった。ようやく解放されるわ」


 先生方がいなくなった途端、お嬢様はだらしなく伸びをすると、首をコキコキと鳴らしました。

 本性を包み隠し続けてきたお嬢様、そうとうお疲れのご様子です。


「こんなに清楚せいそに振る舞ったんだから、今日はもう何にもしなくていいわよね?」


 ところが、お嬢様の願いは叶いませんでした。

 自由時間が始まった途端、公爵家に縁のある生徒さん方が群がってきて、文字通りの〝取り巻き〟を形成してしまったのです。


「ムリ。もうムリ、ほんとムリ。やってらんないわ」


 丁寧に応対していたお嬢様でしたが、猫かぶりに早々にうんざりしてしまい、ついに仮面をはぎ捨てました。


「エレン、ちょっとここに立って」

「はい?」


 お嬢様、私を皆様方の前に立たせると、どうしてか背中を向かせました。

 そして、自分は腰を下ろすと――


「そぉい!」

「へ?」


 下から腕を大きく振り上げ、私のスカートをバサリとめくりあげました。

 さっきと違って、スカートは、それはもう大きくフレア状に舞い拡がって、私の下着と小ぶりなお尻を、日輪のもとに堂々とさらしました。


「え? い、いやぁぁぁぁっ!?」


 女子生徒たちはポカーンと唖然あぜん

 男子生徒たちは、あらわになった私のパンツに、全員目が釘付くぎづけです。


「い、いやっ! 見ないでくださいっ!」


 叫び声に、みなさんようやくハッとなって、視線を外してくださいましたが、それには数秒を要しました。


「な、なんてことするんですかお嬢さ、ま……?」


 抗議の視線を向けようとするも、お嬢様のお姿がありません。

 取り巻きの皆様方も、いなくなった瞬間を誰一人目撃しておらず、キョロキョロと辺りを見回しています。

 そう。

 お嬢様が消えられたのは、全員が私のパンツを見つめていた、わずか数秒のあの瞬間。

 あの時に、脱兎だっとのごとく逃げ出されたのです。


「た、たぶん学園寮です! お嬢様は、早く荷解にほどきをしたいとおっしゃっていましたから」


 私の言葉に取り巻きの皆様は、我先われさきにと学生寮へ向かいました。

 実際には荷解きなんてしてないでしょうが、お嬢様の逃げ込める先は寮の自室くらいのはず。

 私のパンツを目くらましに使った報いです。


 ただ、寮の部屋内は当然プライベートな空間ですから、用件も無しには入れないでしょう。

 お嬢様なら居留守を使ってでも部屋に入れさせないでしょうことも、想像にかたくありません。



「それにしても……うう、まさか、あんな大勢に下着を見られてしまうだなんて……」


 ひとりこの場に残された私は、落ち込みながらトボトボと通路を歩きます。

 すると。


「ふっふっふ。ようやくおひとりになりましたの!」


 どこからか、可愛らしい女の子の声が聞こえました。


「あなた、よくもわたしのお兄様に、色目を使ってくれましたわね!」


 どこでしょう?

 声はするけど、姿は見えず……


「下! 下ですわ! あなたの真下にいるんですの!」


 言われて目線を下げてみました。

 すると、私の腰の高さくらいで、女の子と目が合いました。

 小さな可愛い女の子が、むーっと胸を張るように、私のことを見上げているのです。

 どこかから迷い込んでしまったのでしょうか?


(あれ? でも確か、この子のお顔、さっきの1年生クラスで見た覚えがありますね)


 それに、学園の制服も着用しています。

 サイズはかなり小さめですけど。


「えっと、失礼ですが、私とお嬢様の同級生の方……で、よろしかったでしょうか?」


 まさか……と思いながらも尋ねてみました。


「ふん、さすがは公爵家が認めた専属メイドですの。入学生の顔は全員チェック済みというわけですのね」


 びっくりです。

 ほんとに同級生でした。

 こんなちっちゃいのに。

 え? 本当に同い年ですか?

 飛び級ってないはずですよね、この学園。


「わたしの名前はレベッカ。レベッカ=オルドデンドと言えば、もう、おわかりなのではなくってかしら?」


 女の子は、高らかに名乗りを上げました。

 オルドデンド……聞き覚えが……ああ、そうです。

 ついさっきお会いしたディラン先輩と、同じ苗字じゃありませんか。


「ひょっとして、ディラン先輩の妹さん、なのでしょうか?」

「その通りですの! ディランお兄様の最愛の妹にして、将来の近衛騎士長の優秀な右腕! 賢才けんさい女傑じょけつレベッカ=オルドデンドとは、わたしのことですの!」


 レベッカちゃんは腰に手を当て、小さな胸をおっきく張りました。


「はじめまして。エレン=フィオネッタです。先ほどはディラン先輩に大変お世話になりました。よろしくね、レベッカちゃん」

「あ、いえいえ、どうもご丁寧に。こちらこそよろし……じゃ、ありませんの!」


 レベッカちゃん、どうしてか急に怒り出して、私から距離を取ってしまいました。



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