桜の花が散る前に〜貴方と色付くその街で〜
ホルンボ
第1話
「今年の桜は例年より早く咲き、全国では……」
桜。春の風物詩。古くより『季語』としても親しまれた
その花。
私はその『桜』を綺麗に見れない。
毎回、桜を綺麗に見ることが出来ないのだ。
きっとそれは…何年も前の…『あの子』のせいだ。
─────────────────────
私は1人だった。
親は海外に仕事で行っており、家には誰もいない。
自分自身、人に自慢出来るほどの知能を持ち合わせておらず、一人勉強に打ち込む日々。
友達と遊ぶ時間など到底確保出来るはずもなく、家事や勉強で精一杯。
毎回学校に行って、帰る時にスーパーに寄って、家に帰って…そんな生活を中学校の時から続けてきた。
別に親との関係が特段悪い訳でなく両親も仕事の都合なので仕方がないというスタンスだった。
そんな生活も5年続くと慣れてくるもので、高校二年になった私は手馴れた様子で家事を終わらせて床に就く。
最初の頃は苦痛だったか…もう慣れてしまった。
そんな生活が続いたある日の事。
その日は全国で一気に桜が咲くというなんとも有り得ない事態が起きた日だった。
その日も私は桜になど目もくれず普段通り制服に袖を通し、ネクタイを締め、靴を履く。
電気とガスの確認をして戸締りをし、自転車に乗る。
通学路の途中に桜並木があるのだが、やはりニュースとは凄いもので満開の桜を見に人が大量に集まっていた。
しかし桜が咲いただけで世界がひっくり返る訳では無い。いつも通り授業を受けて…全ていつも通りだった。
……家に帰るまでは。
学校も帰宅のチャイムを告げ、特に部活動に精を出していない私はすぐに帰る事にした。
あまりにも人が多く、スーパーに行く気にもなれない私は急ぎ足で家へと帰ることにした。
頭の中は…休みたいで埋め尽くされていた。
いざ家の前に着くと何やら人が扉の前に立ってあたふたしている。
なんともあーでもないこーでもないと独り言を言っている。
パッと見た感じ悪い人ではなさそうなので話しかけることにした。
「あのー…どうかされました?」
私は首を傾げながら聞くと、その『少女』が振り返った。
高校生と言うには幼く、中学生にしては大人びた、ちょうど中間のような身長。
透き通った白い肌。
まるで誰かが作り出したような艶のある、黒い髪を大きく靡かせて、私に振り返る。
まるで人形のようなその整った顔に目を奪われた。
その中でも特に釘付けにされたのはその瞳だ。
地球上に今現存しているどの宝石よりも美しいと思わせるその濃淡。その艶やかな真紅の瞳に心を奪われる。
呆然とその場に立ち尽くしていると彼女が間髪入れずに聞いた。
「貴方が私の『マスター』ですか?」
声色のとても心地よい…透き通った声。
まるで早朝、誰も踏み入ったことの無い森の真ん中の鳥のさえずりのような、そのような声色。
しかし…放たれた言葉の内容が宜しくなかった。
ただでさえこの絶世の美少女が私の家の前に立っている事自体がおかしいのに、その上『マスター』ときた。
私は更に頭が痛くなった。
頭を抱え唸り声をあげる私を無視して彼女は間髪入れず私に言う。
「え〜っっと確かぁ…あ!そうだそうだ!」
何やら手帳を開くと何か思い出したように私に指を指す。
「私は貴方に会いに来たんですよ!
『紗奈山 春馬』さん!」
「…え?」
私の名を呼ぶその少女は、何も無い私に、春を呼ぶ妖精だったのだ。
桜の花が散る前に〜貴方と色付くその街で〜 ホルンボ @horunbo
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