第3話 一人目:真中皐月(問診編)

 「じゃあ、問診と行きますか。」

  寝っ転がった私に向かって、医者に見えないその男は悪戯っぽい笑顔で言った。

 「問診…?この状態で何するんですか?」

 このどんなに頑張っても違和感しかない状況で、よくわからないことを言われた私はさらに混乱した。

 「よくあるだろ?お医者さんが患者さんに今日はどんな症状ですか〜とか今まで何の病気にかかった〜とか聞くやつ。あれだよ。いかにも"お医者さん"ぽいだろ?」

 「お医者さんぽいって…。本物の医者がそれ言うってどうなんですか…?」

 「まぁまぁいいじゃねえか。じゃあいくぞ?」

 「皐月、最近ちゃんと寝れてるか?」

 「え?」

 普通の問診だと思っていた私は、開始早々面食らった。

 「だから、ちゃんと寝れてるか?目の下のクマ、すごいぞ?」

  「え!?嘘っ!」

 慌てて確認しようとスマホの画面を見る私に、中園が手鏡を差し出してきた。確かにかなりクマが目立ってしまっている。

 「そうだ…。今日、適当に外歩くだけだったから、コンシーラーで隠すの忘れてた…。」

 「いつもコンシーラー?で隠してるのか?」

 (最悪だ…。サボらずやるんだった…。)

 「お前、今日何時に寝た?」

 「え…。4時ですけど…。」

 「はぁ?!皐月、お前、学生だろ?寝なきゃダメだろ!?」

 「うるさいですね…。しょうがないじゃないですか。勉強しなきゃだし、寝てる暇なんてないんですよ…。」

 「お前、大学生じゃないのか?」

 「そうですよ。浪人してるんです。」

 「そうか…。それは…悪かったな。」

 まただ。また、この顔だ…。私はこの顔が嫌いだ。同情に満ちたこの顔が。

 「謝らないでください。自分が招いたことなので。」

 私はいつも通り、笑顔で返す。もう、慣れた。

 「っ…。」

 何か感じ取ったのか、中園の表情が変わった。

 「まあ、とにかく。これで問診は終わりだ。」

 この重い空気を変えるためかパチンと中園が手を叩いた。

 「次は、治療と行こうか。」

 そう言うと中園は私に、イルカのぬいぐるみを手渡してきた。

 「ん?なんでイルカ?」

 「いや、これあった方が寝やすいかな〜と…」

 「え?寝る?ここで⁇」

 「ん?ああ。寝ろ。ここで。」

 「治療って言いましたよね?」

 「あぁ。言ったな。これが治療の前段階なんだよ。」

 「とにかく、安心して寝てみろ。ほら、りらーっくす。」

 ふかふかのベットに、かわいいイルカのぬいぐるみのせいか、一気にとてつもない眠気が襲ってきた。

 「べんきょう…しなきゃ…。」

 「せめて、ここではゆっくり寝な。大丈夫だから。」

 その声を最後に、私の意識は途切れた。

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