第3話 到着

 3人が予約した部屋は旅館の4階にあった。


「部屋番号なんだっけか?」


エレベーターに乗り込む前、サキが由香に聞く。


「えーっと、444番だね」


「あら、覚えやすいわね」


「その番号は普通飛ばして作るだろ」


 文句を言いながらもサキ一同はエレベータから4つ離れた部屋、444の扉の前へ辿り着く。そしてカードキーを差し込み解錠、扉を開ける。目に入って来たのは、広々とした和室だった。


「やったー! 着いたー! 和室だ!」


 綺麗な和室にテンションが上がったらしく、由香が大声ではしゃぐ。


「こら、騒がないの」


 そう言い注意するルナの表情も嬉しそうだ。


「んだよ、値段の割に広くて綺麗じゃん。良い部屋だな。気に入った」


 サキが満足げに言う。他のツアーと比べ低額だったためクオリティに不安があったのだが、それも杞憂に終わりそうだ。


「あ!」


 と、何かを見つけたらしい由香が楽しそうにサキを手招きしていた。サキは上機嫌で由香へと近づいた。


「サキちゃん! 見てみて! すごいよ! この部屋、鏡が全部合わせ鏡になるよう配置されてる!」


 何かを見つけたルナも続ける。


「あら、しかも全ての鏡に赤い小さな六芒星がたくさん描かれてるわね」


「急にきっしょい部屋ァ!」


 サキは叫んだ。


「あれ? テレビの裏からお札(ふだ)っぽい模様が描かれたお札と同じような大きさの紙片が出てきたよ!」


「それを! 人はお札と呼ぶんだよ!」


 サキはできる限りの大声で叫んだ。目に見えない何かを頑張って祓うかのような気迫だった。

 

「はぁ......はぁ......。そういやこの旅館、1階にゲーセンあるらしいぞ。メシの前に見に行こうぜ」


「わっ、さんせーい!」


 由香が手を挙げて応える。


「私はあるかりせーい」


「賛成が中和されちまったじゃねーか」


 3人は中性のままゲームコーナーへ向かった。



【アミューズメントコーナー】

 

「へー。思ったより広いじゃん。ラウワンみてーだな」


「ふふふ、やっぱりヤンキーはラウワンがすぐに頭に浮かぶんだね! 本能かな?」


「とんでもねぇ偏見だよオイ」


 サキが由香を睨め付ける。そんな様子にいっさい構わずルナが二人を手招きする。


「ねぇねぇ、アレ見て。卓球たっきゅうやりましょうよ」


「え? ファッキュー?」


「言ってねぇよ」


 由香の耳を疑うような発言に、思わず由香の聴力みみを疑うサキ。


「あっ! こっちにはカラオケもあるわよ!」


「え? ファッキュー?」


「それは絶対聞き間違えねぇよ!」


 結局、3人はファッキューとファッキューをした後に食堂へと向かった。



 ────────────────────────


【食堂】


 旅館2階の大広間はすでに大勢の宿泊客で賑わっていた。所狭しと並ぶ豪華な食事、これを好きなモノを好きなだけ食べて良いという事実に、自然とテンションが上がる。3人は部屋番号の書かれた、空いている丸テーブルを囲み着席した。


「やっぱ旅行の醍醐味だいごみといったら料理だよな〜」


 サキがテンション高く言う。


「えっ? 建武の新政?」


「ふふ、由香ちゃん。それは後醍醐味ごだいごみよ」


「そんな言葉はねぇよ」


 サキがツッコミを入れる。続けてルナがいう。


「私、食べ放題に備えて、今日の朝から何も食べてないわよ」


「それって逆に食えなくなるらしいぞ」


「私は昨日の朝、何も食べられない体になったよ!」


「なんでだよ」


 一生眠れず食べられない体になったらしい由香をサキは呆れた表情で見やった。いや、そういえばバスでお菓子を貪り喰らってただろ。


「それじゃ、早速色々取ってくるわね」


 言って、ルナが席を立つ。


「おう、私も行く」


「わたしもー!」


 3人は一旦散り散りとなり、会場に置かれた料理たちを取りに向かった。



【食堂:テーブル】



 最初に席に戻ってきたのはサキだった。残り2人を待つ必要もないため、一人でいただきますして食事を始める。主食に野菜、先走ってデザートまで乗っている。サキは自分の盛り付けセンスのなさを感じながら料理を口に運ぶ。しばらく後、由香が戻ってきた。


「サキちゃん、それ何食べてるの」


 スプーンで何かを食べるサキに、由香が質問しながら座る。


「ああ。くずもち」


「へー?」


 由香があんまり分かってなさそうな声を出すが、特に気にせず食べ進める。と、ルナが戻ってきた。


「色々食べ物があったから、つい取りまくっちゃうわね」


 彩りを無視した皿いっぱいの料理を携えてルナが席につく。色々混ざった一枚の皿を見て、こいつも盛り付けのセンスないなとサキは思った。


「あら? サキが食べてるそれは何?」


 ルナが聞く。口を動かすサキに代わり、由香が答えた。


「なんか、ごみくずみたいな名前の料理を食べてるらしいよ」


「なんてこと言うんだよ」


 咀嚼の終わったサキがツッコむ。

 

「ふふ、お似合いね」


「お似合いってなんだよ!」


 ルナはサキの叫びには特に取り合わず、今度は由香の皿へと視線を移す。


「由香の方は何食べてるの?」


「えーっとねー、茶碗蒸し!」


 由香が茶碗蒸しを掲げて答える。と、茶碗蒸しの中からなにやらホコリみたいなモノが舞った。


「ん? その茶碗蒸しからなんか飛んだぞ」


 3人は茶碗蒸しを覗き込む。そこにはヒラヒラとした、金色のモノが乗っていた。


「もしかして......金箔きんぱく!?」


 由香が嬉しそうに言う。


「確かにキラキラしてるわね。食べたら分かるかもよ」


 ルナに促され、由香はキラキラしたものを茶碗蒸しと一緒にすくい口に運んだ。


「すごい! 金属の味が口いっぱいに広がって、茶碗蒸しの味が全部死んでる!」


「そんな味の濃い金箔ないだろ」


 こうして無駄話をしながら、3人は時間いっぱい食事を楽しんだ。

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