サマリアン

サマリアンは困惑していた。

いつも通りにパチッと目を覚ますと、見えたのは見慣れたベッドの上を覆う赤と青の星空天幕ではなく、まっ黒い金属でできた知らない天井だったのだ。


「…………?」


寝起きのぼやっとした視界で周囲をそっと見回す。

見れば見るほど、寝る前にいたはずの自分の部屋ではありえない。

だって、自分の部屋なら壁も床もすべて石造りだ。

しかも、採掘師たちが手彫りで切り出したザラザラごつごつした石壁だ。

なのに……壁も床も天井と同じ、つるっとした金属で出来ているなんて。


(そういえば、なんでボンヤリ回りが見えるんだろ……)


呆然と視線を床に下ろせば、床に等間隔にはめられた白いタイルのようなものが明かり代わりなのか、そこだけぼんやりと光っている。


サマリアンの暮らす王居にこんなところはないし、父上が仕事をする王城にも、いや、サマリアンの暮らすコランダム王国中探しても、絶対にこんな部屋はない。


城と同じで王国ならまず、建材に石を使う。

コランダムで一番豊富にとれるからだ。

逆に金属は大変貴重で、国内で唯一とれるモリブデンはほぼ武器や防具などの貴重品専用になっている。


「…………」


それにしても、こんな光を吸うような真っ黒い金属があっただろうか。

いや床の光るタイルの話も聞いたことはない。

少なくとも父上や母上から教えて貰った事にはないし、サマリアンが一度も見たことのないモノなのは確かだ。

寝たまま、顔のすぐ横のツルツルの壁にペタリと手のひらで触れてハッとする。


(……ということは、ココはコランダムじゃない……?)


昨日弟と二人で寝たいつもの寝室じゃなく、コランダム王国でもない。


ビックリして飛び起きかけて、頑張ってそのままじっと我慢する。


(出来るだけ静かに、大きな音を立てない。からだをおこすときはゆっくりと。音は敵を引き付ける……)


母上達が教えてくれた”非常時の対処法そのに”だ。


グッと浅くなる息をのみ込むと、母上に教えて貰った、”非常時の対処法そのいち”を思い出してみる。


”その1、安全な場所を確保すること。いいこと、サマー、まずは身を隠すの。人の目につかない場所に移動しなさい”


(隠れられる場所……)


出来るだけ静かに体を起こしてみると、そこは寝台でさえなく、謎のモチモチしたベッド大の巨大なクッションをいくつも並べた上に布を掛けたもの。ぷにぷにと柔らかな素材だが沈み過ぎず、寝心地は悪くはなかった。


ある程度周囲の状況を把握した辺りで、ふっと隣で無防備にすやすや眠る弟に気づく。

このうすぼんやりした明かりでは顔も良く見えないが、二人揃って攫われてきたようだ。


(でも、ピジョンも一緒で良かったかもしれない。二人ならテレパスで何とか逃げられる……!)


いつまでも隣でのんきに寝ている弟を起こそうとテレパスを送る。


(”おい、ピジョン、いいかげんに起きろ!きこえてるだろ?母上のいってた”ひじょうじたい”だ……、……?”)


「……ピジョン?」


ピジョンではない。

よくよく見れば、ピジョンより明らかに体が小さい。



隣に寝ていたのは、いつもの小生意気な弟ピジョンではなく、薄明りにもはっきりと緑の髪の、見たこともない知らない子供。

同じようにして他に二人、それぞれクッションの上を陣取ってまったくしらない男の子が眠っている。


「…………」


テレパスは使えない。少なくとも範囲内に弟がいない。


ここはどこだ。

そして誰だ、この子たちは。



その問いに答えられそうなものの姿はなかった。

……今の所は。


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