よいこのためのXXXXXXたいさく
珈琲屋
はじまりの黒い部屋
その部屋は黒かった。
そしてただただ四角かった。
その真っ黒く四角い部屋の真ん中で、白髪銀メガネ年齢不詳の、白の軍服のような服を着た背の高い男が、パンパン、とにこやかに手を叩く。
「ハイハイ、みなさんお目覚めですかねー? お忙しい中お集まりいただきまして、真にありがとうございます」
その声にビクッと脅えるように男を見る子供たち。
男の子ばかり、3~5才くらいだろうか。
男から一番遠い部屋の一隅に一かたまりになっている。
わんわんと泣き出す子もいれば、泣く子を慰める子、涙目ながらも男を睨みつける子、プルプルと震えながらしゃがみ込む子などなど。
容姿は様々だが、服装から察するにどの子も裕福、なにせ各国王家の未来の王太子たちだ。
彼らは昨夜一様に、この殺風景な真っ黒い無機質な部屋へ攫われてきたのである。
一番年長であろう金髪碧眼の子供が、震えながらも他の子を庇うように一歩前に踏み出して言う。
「お、おまえはなにものだ!なんのもくてきで、ぼくたちをさらった!」
「おやおや、人に名前を尋ねる時は、先に自分が名乗るのが礼儀ですよー? そのお年で、まだ最低限の礼儀作法も身についていないのですか? 先が思いやられますねえ、コランダム王国サマリアン様?」
「………!」
あんぐりと口を開ける子供の前で、白髪の男が優雅に一礼する。
「ワタクシはホワイテスと申します。このたび、皆様各国の貴い血の方々を、お一人ずつこちらに攫わせて頂きました。……ですので、心配なさらずともあなたの双子の弟君、ピジョンブラッド様は無事です」
「……なぜ、……」
「弟君の心配をしていたとわかると? ……見ればわかるとおり、えらーい王様達のお子様方を一度にこんなに攫えるくらい、ワタクシは頭が良く力もあるわけです。貴方のような小さなお子様の考えていることぐらい、お見通しですとも。ですから脱走や反抗は無駄です、ちゃあんと大人しくしていないと、ひどい目に合わせちゃいますからねー? オパール王国アンダムカ様? そして、あんまりワンワン泣く方もおそろしい目に合わせますよ、ベリル帝国エルドラド様?」
「…………っ」
「……ヒッ……!」
急に名を呼ばれ、ずっと男を睨みつけていた茶髪紫眼にメガネのの子供がぐっと堪えるように下を向き、延々泣き続けていた緑髪金目の一番小さな子供がこぼれそうな目を見開いて慄く。
「さてさて、宜しいですかね。お部屋が静かになったところで、あなた方に見せたいものがあります!」
変わらずにこやかな男がパンパンと手を叩くと、ウィーンと妙な機械音がして、ずっと壁だと思っていた反対側が、音もなく上へ上へ開いていく。すかさずサマリアンが走ったが、ペタリと手をついたのは、ツルツルとした謎の素材でできた不透明で分厚い壁だった。
がくりと肩を落とす子供に構わず、男がもう一度手を鳴らす。
すると、突然目の前の壁の色が抜け透明になり。
「……!」
一人黒い壁の隅に張り付いてプルプルと震えるだけだった黒髪赤目の子供が、チラッと透明な壁の向こうを見るなり、サマリアンの横にすっ飛んできて、そのまま壁をどんどんと叩く。
「……マリー!? マリー! マリーゴールドッ! ……なんで、どうしてマリーが!?」
震え声で一瞬男を見上げるも、視線は再び透明な壁の方へ向く。
「さすが、視力にずば抜けると噂のスピネル共和国クロム様。ご自身の婚約者を一目で見つけましたか」
感心したように言う男の声に、一斉に子供たちが走って来て、透明な壁に張りつく。
よくよく見れば、壁から遠く離れた向こう端、ドレス姿の小さな女の子たちの集団が。
目を凝らせば、間違いなく彼らの婚約者で、皆それぞれに壁を叩いたり大声で名を呼ぶが、どうもまったく聞こえていないようだった。
しかしクロムだけは必死で壁を叩き続けている。
彼が見ている方角へサマリアンが目を細めると、遠くからゆっくり女の子たちに近づいていくものがある。
遠目に見ても、大きなブラックデスベアーにホワイトブラッドタイガーとネジネジツノヤギを掛け合わせたかのような恐ろしい化け物で、しかも女の子集団を守るように両手を広げ、先頭で仁王立ちになっているピンクのドレスは、自身の婚約者ティアリエルではないか。
ザアッと体中の血の気が引く思いで、逃げろと必死で叫ぶ子供たちの集団を突如、ぽよんと柔らかくなった壁が弾き飛ばし、続いて壁がまた機械音と共に固く不透明に戻っていく。
「「「「…………」」」」
弾かれ尻もちをついたまま、呆然とする子供たちに男が言う。
「大丈夫ですよ、ご令嬢方にあの怪物は近寄れません。周りをコレと同じ透明な壁で覆ってありますからねー。…ただし、ずっと無事でいられるかどうかは、あなた方がワタクシの用意した問題を乗り越えられるか、にかかっています。……はいはい、今まで上手に気配を消して隠れていたのに、そこで殺気を飛ばすとワタクシに見つかりますよ、ダイヤ皇国カリナーン様?」
突然目の前に出現した銀髪黒目の子供の襟首を、さも当然のように捕まえると、男はぽいっとカリナーンをサマリアン達の前に放りだした。
「さあさあ、ようやく5人の王子様が揃った事ですし、始めましょうか。ちゃんと全員で協力して問題を解かないと、彼女たちはあの怪物に食べられて死んでしまいます。問題が解ければ、あなた方も彼女たちも無事におうちへ帰れます。精々頑張ってあがいて下さいねー?」
ニコニコと男が言うなり、男の周り以外の床がスッと消え、王子たちはなすすべなく下へと落ちていった。
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