1-3 secret area
「むう。おいで」
夜九時半。むうを抱っこしながら部屋に入った。
むうはすぐに腕から抜けて布団の中にもぐる。
「もぅ。むう何してるの?」
ばっと布団をめくると、お風呂を入る前に温めておいた電気毛布に、体全身が当たるように薄く寝っ転がっているむうがいた。
……ロシアンブルーは猫の中でも寒さに強く暑さに弱いと聞いたことあるのに。
もしかしたらむうは少し特殊なのかもしれない。他の子を見た事ないから分からないけど。
7歳の時まだ生まれたばかりだったむうも今は五歳。
でも、人間で例えたら三十六歳と言うなかなかリアルな数字を出してくる。
そして、今年の十月で六歳になる。
人間で例えると四十歳。一歳の時は十八歳で二歳の時は二年追加されて、そこから一歳ずつ四年追加される計算らしい。……僕よりも年上だ。
いつの間に追い越されていたんだろう。あ、二か月の時にはもう越されているか。
猫は二カ月で八歳だった。
「にゃー」
「あ、ごめんごめん」
むうが少し怒り気味で呼んできた。多分、布団をはぎ取られて寒かったのだろう。
「むう、ちょっと寄れる?じゃないと蹴っちゃうよ」
「ファーッ」
むうが怒って足にかかってきた。
「痛い!痛い!もう!むうそんなことするなら!」
カチっと電気毛布の電源を切った。
徐々に冷めていく電気毛布から離れて心の首元に頭を入れてすりすりする。
「ふふ。くすぐったい」
そう言って綺麗なグレーの毛をなでる。
むうは嬉しそうに目を細めた後、すぐに眠りに落ちた。
「やっぱり可愛いなぁ。あ、鍵…」
ベッドから出てカバンから鍵を取りだす。そして、そのまま勉強机の上に鍵を置く。
王冠をモチーフに作られたアンティークな鍵。
………可愛い。意外とこういう感じのも好きなのかな。
ベッドに戻ると、枕元に置いている読みかけの本が目に入った。
……続きが読みたい。でも、読んだら怒られちゃうしな。
よし、今日は我慢だ。明日「flare」に行くためにも。
「ふぅー。おやすみ」
むうに向かってぼそっと言う。
明日がすごく楽しみ。
ワクワクしていると徐々に瞼が落ちて、そのまま眠りについた。
最近、目覚まし時計はいらない、とよく思う。
小学生の時にも薄々感じていたけど、中学生になってからはもっと。
だって、目覚まし時計でセットしている時間よりも早く起こしてくる者がいるから…。
「にゃーお。みゃーお」
「うぅ、うーん。うるしゃいぃ……」
「にゃーお。にゃー」
おなかあたりに感じる何かに踏まれる感触。
「んん、むう、うるさい!静かにしてよぉ」
ばっと起き上がって布団をめくると、めくられた布団に挟まれてもぞもぞしている物体は飼い猫のむう。猫と言う名の、朝四時きっちりに起こしてくる目覚まし時計だ。
「ほぁ…おはよう、むう。ごはん?ちょっと待っててね」
ベッドから降りて、目を擦りながら下へ行く。
リビングについたら、むうの物しかいれていない専用の棚からキャットフードを取りだす。
そのままキッチンのほうに行って、むうのお皿にカラカラっとキャットフードを入れる。
その後リビングに戻って、餌の入った皿と水が入った皿を置くのだが、なぜかむうはずっとついて来る。
むうさん、着いて来てもご飯を食べるタイミングは変わらないよ。
いつもお皿が置かれる場所が分かっているはずなのに、何で着いて来るんだろう。
「はい、どうぞ」
床にお皿を置いた瞬間むうが駆け寄ってきて食べ始める。
こんなただカリカリとしたやつがそんなにおいしいのかな?
「……………っあ」
そーっと手を伸ばしてキャットフードを取ろうとしたけどむうに睨まれた。
ですよねー。
まず食べようとする考えがおかしいのかな?
「ふぁぁぁ。まだ眠たいし、もうちょっと寝よう」
いつも早起きのむうにあわせてはいられない。
そう思いながら、いつも通り自分の部屋に戻った。
「……あれ?なにこれ」
目が覚めた時にはもうお母さんたちが起きている時間。
何時だろうと思い、勉強机においてある時計で確認しようとした。
でも、それどころじゃない!
昨日の夜、机の上においた王冠の形の鍵。それがダイヤの形になっていた。
「何で……?」
おかしい。いや、絶対におかしいよ!
「やっぱりこれ呪われているのかなぁ」
昨日家に帰ってから、ふと考えたりしていた。
偶然鍵を拾った人が、その持ち主の場所へ導かれた……なんて事を。
ファンタジーの結論だとそうなる。
でも、現実で考えたら偶然に偶然が重なって訳分からない事になってる!
「うーん。捨てようかな?」
半ば強引に貰わせられたと言っても過言ではない鍵。
「返そう!」
そうだ。それが一番なんだ。
今日、古書店に行く事は約束している。
よかったぁ。怖いもの苦手だし。
「あ、月人から何かきてる」
餌を上げる前に充電器にさしておいたスマホからは通知音。
『今日委員会でちょっと早く学校行くんだけどどうする?』
そっか、どうしよう。でも何時くらいのバスに乗るんだろう?
いつも乗るのは学校に間に合う時刻での最終便の前。
僕と月人は勝手に四便と言っているけど。
『何時のバスに乗るの?』
とりあえず聞いてみた。四便よりも早いのは七時二十分より前のバスたち。
三つある。
『六時五十分のバスに乗るつもり』 『七時十分には始まるみたいだから』
………あと二十分。
「無理かなぁ?」
でも月人と行きたい。一人は寂しい。
意を決して了解というスタンプを送った。
『もしかしたら遅れるかも』 『遅れちゃったら置いてっていいよ』
出来る限り頑張るつもりだけど、遅れる可能性の方が高い。
送信した途端、トーク画面から通話画面に切り替わった。
「ふぇ!?」
びっくりして間抜けな声が出ちゃった。
相手は月人。
わざわざ電話までして何か伝えたい事があるのかな?
そう思いながら通話に出る。
「もしもし?どうしたの月人?」
『心、分かってる?』
「ん?」
『僕が心を置いてって行くと思うの?』
「え、うん。仕方ないし」
『無理だよ。もし遅れちゃって、次のバス待つまでに変な人とかに誘拐されちゃったらどうするの?!僕は生きていけないよ!心を迎えに行くまでは生きなきゃいけないけどさ。いや、だとしてもその後罪悪感で死ねるよ!』
「つ、月人!おちついて。そんなこと起きっこないよ。ほら、家とバス停近いし」
『いや、そういう話じゃない!そもそも一人でバスを乗らせる事の時点で心配で心配で仕方ないんだよ!』
「……僕、一生一人暮らしできないじゃん………」
『もし、一人暮らししたいと思ったら僕と住もうね。とにかく僕は一人で行くから心は三便に乗って。そしたら一人じゃないから、分かった?』
「う、うん。でも、なんで?別に乗る人いないんじゃ……」
『いるよ。だって、三便は少し遠回りするでしょ』
「あ!」
そうだった。
唯一頼れる先輩が乗るバスだ。
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