11話 三日目だよ。もう異世界転移訓練学校には慣れたかな
異世界に来て三日目。
俺は太陽の明かりで目が覚めた。
厳密には太陽のような恒星なんだろうけど、太陽と名付けた。別に二つあるわけでも、特殊な色をしているわけでもない。普通の太陽だ。
修学旅行感覚で朝の準備や朝食を済ませると、一斉に登校。集団行動をしているせいか、だらだらせずに、みんなと同じような時間感覚で行動してしまった。
教師が来るまでの朝のガヤガヤ時間も、なんか、もう、本当に日本の高校。
俺が会話の輪に交ざれず、割とはぶられ気味なのも、もう、ね。
なんだよー。
お前ら、異世界に召喚された救世主だろ。勇者的な存在なんだろ。冒険者だってギルドで仲間を集めるためにはコミュ力必須だぜ?
だったら、教室でぼっちしている奴に声をかけろよ。
仲間外れみたいで格好わるいだろ。
というか、教室の左前にある、この教師用の机、何て呼び名なんだろうな?
教卓とは違うし、俺の出身校じゃ、単に『先生の席』って言ってたな。
というか、この席って中学校までじゃないのか? 高校には無かったぞ?
あ、そっか。俺だけ先生の席にいるから、みんな話しかけにくいんだな。
別にはぶられているわけじゃない。そうだ。そうに決まってる
ふう……。
ああ……。ふあああ……。
寝不足で盛大にあくびが出てしまった。
昨晩はごっちゃんが夜這いしてくれるかと期待し……たわけじゃないが、妙に目がさえて眠れなかったんだよ。
古い建物だから隙間風が気になってきて、ベッドと机の位置を変えてけっこう疲れた。
あー、眠い。だるい。
「おはよう。赤井君」
「ん? ああ、おはよう。刃刀!」
気さくに手を掲げて近づいてきたのは、目玉焼きに塩をかける派の刃刀詩音だ。
「詩音って呼んでよ。何でこの教室、席が一個だけ前にあるんだろうね。大きいし」
「いやいや、普通に先生用のだろ?」
「え? 先生用の机なんて無いでしょ?」
「ん? 俺の通った小学校や中学校には有ったぞ?」
「うっそだー。僕の通ってたところにはなかったよ」
「へー、そうなんだ」
詩音が笑顔で話しかけてくるから返事しやすい。大きい声を出さないし、こっちの発言を遮ることもないし、こいつ、すっごく話しやすいぞ。
俺が詩音と談笑しているとモブ生徒がひとり、ふたりとやってきて会話に混ざってくる。
「学校の仕組みを考慮すれば、教室に教師の席は無い。立場の違いを知るためにも、教師の席は職員室のみに置くべきだ」
目玉焼きに醤油をかける派の、醤油顔の眼鏡野郎がメガネをキラーン。
「いや、有る」
ソースをかける派の、ソース顔男子が無骨に言い放つ。
「そんなことより舞ちゃん先生まだかなー。今日はどんな可愛い姿見せてくれるかなあ。あれで十六歳でしょ? どう見ても小学生だよお。萌えるぅ」
目玉焼きにケチャップをかけるというケチャップ野郎が、ニチャアと目を細める。父親が外国人で、
いやー、いいな、雑談。
男が輪になって他愛のない話に興じるのも悪くはない。
「ところでさ」
詩音こと塩が話の腰を折り、一瞬だけ間が空いた。
「昨日の夜、緊張や不安で、よく眠れなかったんだよね」
醤油、ソース、ケチャップが「ああ、そうだな」「俺もだ」「舞ちゃん今日はどんなコスプレなんだろう」と頷く。
塩は三人の反応を確認した後、勿体ぶるようにしてゆっくりと口を開く。
「ただでさえ眠れないのに、隣の部屋から夜中ずっとベッドが軋むような音が聞こえてきたんだよ」
マジか。迷惑な奴もいるんだな。
「今朝、みんなに確認したんだけど」
俺は塩から何も聞かれていないんだけど、もしかして「みんな」から除外されてる?
「やっぱ、ごっちゃん先生が夜這いをしてくれたって男子はいないんだよ。ねえ、ところで隣室の赤井君」
「ん? 隣って詩音だったんだ」
さっき詩音って呼べって言ったから、詩音って呼んだんだけど、いいよな?
「ずいぶんと眠そうだし疲れている様子だけど、昨晩はずっとギシギシと何をしていたのかな」
「ああ。部屋の模様替えを――」
いきなり醤油に椅子を引かれ、転びはしなかったものの腰が浮きあがりかけたところ、左右からソースとケチャップが肘を掴んできた。
「え、あれ?」
左右をがっちり掴まれて、俺は強制的に立たされた。背後の醤油が正面に回ってきて、机にあった定規で俺の頬をぺちぺちと叩いてくる。
その気になればいつでも振りほどけるが、とりあえず様子見だ。
「最初に宣言する。これは尋問ではない。君の返答次第では、即、処刑だということをよく理解したうえで返答してくれたまえ」
眼鏡を輝かせながら近距離で睨んできた。
なんなんだよ、もー。
いや、でも、まあ、こうやってクラスメイトと馬鹿な理由で騒ぐのって、なんか、青春だな。ソースかケチャップかどっちか知らんけど、俺の尻を撫でているのは気のせいだろう。
ひー。
尻を這いまわっていた手が、ゆっくりと腰を撫でつつ、前にやってくる。
ちょっと待って! 首筋にメッチャ鼻息かかってくる!
誰か助けて!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます