第5話 ローファンタジーか?

5話 



 翌日、俺はクソデカ日本家屋の前に居た。

 

 隣には訳がわからないと言った様子の現実世界のカイトがいる。フフフ、こんな訳の分からない世界に1人で足を突っ込んでたまるかよ。来週もコウタの地獄に付き合って貰う………


「どうぞこちらへ。お嬢様がお待ちです。」


 案内の人に促され門をくぐる。その瞬間に何かが身体に纏わりつく感じがして一瞬でっぷりとした短いヘビの姿を幻視する。いったいなんだったんだ?


「コウタ、なんかやべぇよココ。ゾワゾワしないか?」


 カイトがほぼ無意識にだろうが肩の辺りを撫でる。そこに随分小さな姿となったカイトの相棒の小ドラゴンが止まって気持ち良さそうに頭を撫でられていた。えぇ……ゲームのやり過ぎかな……


 長い廊下を歩いていると突き当たりに白いウサギが居る気がする。アレってあのお嬢様と小競り合いした時に居たイナって呼ばれてたウサギか?いや気の所為か?


 ウサギを目で追っていると案内していた筈の使用人らしき人がいつの間にか消えていた。


 ふむ……コレは……昨日陰陽師がどうとか言ってたしマジであるのか?


「おい、カイト、ひょっとしたら俺達はローファンタジーな世界に片足を突っ込んでるのかもしれない。現実世界がベースだけど神秘の力が実は存在して……みたいなさ。」


「いきなり厨二病か?…………って笑いたいが何か俺もそんな気がするんだよな……なんとなく、ここは現実なのに、精騎士の時の相棒スイが肩に乗ってる気がするんだ」


「お前もか、こっちもハッキリとは見えないんだがノコが近くに居る気がするんだよな。……あのウサギが分かるか?」


「なんとなく」


 他に手がかりは無いと2人してノコノコとウサギについていく。するととある襖の前で止まるウサギ。


「ここ、みたいだな。失礼します」


 スッと襖を引いて部屋の中にあがると、上座に人の良さげな普通のお爺さんとお婆さんが座っていた。


「ふむ、カリンとシノが揃って言うから試してみたら大当たりか。今はめっきり少なくなってしまって貴重な術師の素養持ちが2人も」


「あなた、顔を見て第一声がそれじゃ無駄に怖がらせてしまうわよ」


 ヤバい。ヤバいなんてもんじゃなくヤバい。なんで部屋に入るまで分からなかったんだってレベルでヤバい。なんだあの爺さん婆さん!震えが止まらねぇ!


 ガチガチと歯を鳴らしながらも俺はどうにかこうにか声を絞り出す。


「お、お招きいただき……ありがとう……ございます。不詳、山田コウタ、と申します……」


 小声でカイトにも挨拶を促す。俺の挨拶に続く様にカイトも震えながら自己紹介をする。


「カッカッカッカ!若いのの今頃の流行りの物語だと生意気で自信過剰なヤツか、自分自信のチカラに無頓着なヤツを割合多く見かけるのに!お前らと来たらつまらんのう!!パニックをおこして掴みかかってくるか、一切気付かず普通の年寄りと認識するか楽しみにしてたのに残念だわい!!」


 爺さんなかなか良い性格してやがるな……プレッシャーが消えた?とりあえず合格って所か?いや、油断しちゃあダメだな。得体が知れなさ過ぎる。危害を加えるつもりは無いだろうが、無事に帰すつもりも無い。そういう感じだ。


「私もてっきりカリンがまた空回りしてるのかと思ってましたが、こっち側の素養はありそうですね。」


「じゃあ戦って貰うか!!おい!コウタくんついて来い!」


 ジジイがずんずんと廊下を進むと中庭とおぼしき広場に出る。


「御館様、カリンお嬢様とシノが言っていた素養のある者ですか、シノの一撃を耐えられるとは思いませんが」


 長髪のクール系イケメンがこちらを挑発的に見てくる。あー、でもアレはジジイに比べたらハナクソも良いとこやな。


「ワハハハハハハ!ハナクソ!!シュウジを見て感想がハナクソか!!婆さん!ワシコイツ気に入ったわい!」


 そしてジジイの術かなんなのか、みるみるうちに模擬戦といったフィールドが形成されて行く。


「さぁ、シュウジ、コウタくん。位置に付くが良い。そしてコウタくん、ルールは“なんでもアリ”だ。殺しさえしなければ好きなだけやると良い。多少折れても術で直してやる。」


 そのセリフにシュウジと呼ばれていたイケメンが続く。


「僕の事をハナクソだと感じたらしいね?ここに来た事を後悔させてあげるよ」


 うぅむ………呼ばれたから来ただけで特に目的があるわけじゃないんだが?だけど昨日からのこの非日常感は嫌いじゃないな。ノコが遊べって語りかけて来てる感じがする。とりあえずコイツで遊んで感触を確かめてみるか。


「位置についたな?それでは………始め!!」


「さぁ、胸を貸してやろう。一発打ち込んで来てみなよ。実力の差を教えてあげる」


「グチグチうるさいなケンカにお喋りが必要かぁ?!」


 渾身の右ストレートをぶち込む!!だがシュウジの少し手間で見えない壁に阻まれる。


「ハハッ!気を感覚的に「ガン!」使っているのか?だが「ガン!」ただ殴るだけで「ガン!」僕に勝てると「ガン!」話を聞けぇ!」


 バリアに1回弾かれたからって諦めずに頑張ればA〇フィールドみたいに割れないかなぁと殴り続けていたら見えない壁に弾き飛ばされる。


「陰陽師、ひいては術師と呼ばれる者の戦い方を見せてあげるよ!!護鬼ごきっ!」


 シュウジの足元が輝くと3メートルはある巨人が現れる。なんだあれ?!


「古来より人は神の力を借りて巨大な妖魔と戦って来た。その力を見せてやる!」


 一本角で着流しを身に着け巨大な日本刀を携えている鬼、その鬼が光となってシュウジに吸い込まれる。気付くとシュウジに青い角が生えて手には鞘に入った日本刀が握られていた。


「バリア割れそうになって焦って奥の手をだしたのかよ。図体の割に案外小物だな?」


「ハッハッハ!術師は式神、西洋では使い魔と言うがそういう存在と契約して力を借りる!そしてその究極が自分自信に合体させるこの姿だ!」


 高らかに笑いながら鞘に入ったままの日本刀を振り下ろして来る!!両腕で受け止めるとバギッッ!と嫌な音が響く。折れては……無いな!


「究極にしてはショボいな!!」


 両腕は痺れて使えない、だからヤツの向こう脛を全力でヤクザキックする。“もや”が纏わりついて勢いづいた足が深く足に突き刺さりショウジは苦悶の声を上げる。だが、反射的に伸ばされた足に弾き飛ばされて俺は漆喰の壁にめり込む!


「カッカッカッ!2対1はいかんともし難いであろう?強力な妖魔妖精の類を身に宿しその力を行使する。人の身だけではどうにもならぬ悪鬼羅刹をなんとか倒す為に生み出された苦肉の策が“合一ごういつ”と呼ばれる技術じゃ。ホレ試してみぃ」


「よっしゃよく分からんがやられたママは嫌だからな!!ノコ!合一だ!」


 近くに居る様な気がしていたノコの存在感が俺の中に入って来る。気付いたら両手がヘビ皮財布みたいになっていた。ってか腕が痺れてない!治ったか!


「ぞりゃあ!!」


 ヘビのウロコに覆われた拳をシュウジに叩きつける。鞘に入ったままの日本刀とぶつかり軋みを上げる。そのまま鞘を掴みシュウジを振り回し地面に叩きつける!!


「ち、調子に乗りやがって………」


 シュウジが日本刀の鯉口を切りその刀身をあらわにする。


「そこまでじゃ!!」


 いつの間にかシュウジの背後にいたジジイが首に手刀を当てていた。

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