世、妖(あやかし)おらず ー酒乱獅子ー

銀満ノ錦平

酒乱獅子


酒というものはどういう時に飲むのだろうか。


様々な理由があり、そこには必ず気の持ちようを発散するという理由が多い。


私といえば、知り合いと飲む時は楽しく飲むが一人の時は結構がさつに呑んでしまうことがある。


何故なのかといえば、私は人見知りが激しく、親しくない人…例えば仕事上で共に働いてる人なんか他人も他人なのでそこを意識してしまい、話す言葉が頑なな感じになってしまい結局は、ぶっきらぼうというあだ名を持たれることになってしまった。


それを気付かない振りをすれば良いのだか耳に入ると頭に嫌々に入ってしまうためどうしても残ってしまう。


辛い、辛いがどうしようもない。


ないからこそ酒を呑んで発散する。


頭からこびり付いた負の感情を忘れるために。


呑みすぎると身体に悪いことも知っているがそんなの今の歳には関係ない。


だから元気な時に呑むのだ。


今までは呑んで発散して終わりだった。


だが最近は、起きたら部屋が散らかり、まるで猛獣が漁り散らしたような有り様が続いていた。


アルコール中毒なのかと不安になり、病院などに行ったが異常無し。


寧ろ今までより肝臓の健康を表す数値が正常的過ぎてほんとに酒を暴飲してるのかと疑われるほどであった。


もしかしたら呑んでるうちにアルコールの消費を極端に減らす体質にでもなったのではと言われたが向こうの医者も半信半疑に近い対応で私もなんだかスッキリしなかった。


ただ最低でも今も呑み続けることができるのが分かり、その後も暴飲に勤しんだ…そして家を荒らしていった。


プライベートの中も外も段々と一人孤立していく自分自身に嫌気が指してきていて、そこに酒を呑んでも健康体でいられる体質になったことが重なり益々、酒の瓶が増えてきていた。


誰にも相談できず…というより相談する意味がないし今のままで満足している。


家の中が荒れてようが片付ければいいだけなので全然気にならなかった。


だがある日を切っ掛けに少し恐怖し始めることになった。


爪が、爪痕が壁一面に出来るようになっていった。


私の爪は別にそんな長いというわけではないしこの間爪を切ったのでここまで鋭く切り裂くような爪痕を残せるわけがない。


もしかして酔った時に何か生き物を連れてきてしまっているのではないかと不安に苛まれ、私は自分の行動を知るべくやっと部屋に防犯カメラを設置するようにした。


よく考えればアルコール中毒なんて健康体であろうが摂取したら起こることなのである。


数値が良くてもなるのを考慮してなかった。


そういえば医者も注意していたがそんなの酒で暴れることの方に思考がいっぱいだったため話半分…頭半分以下で聞いていた。


明日からちゃんと病院に行って再び診察してもらい、治そう…私は、それを決心し再び酒を呑むことにした。


これが最後だ、最後の晩餐酒だ…そう鼻で笑いながらいつもの様に呑んだ。




気付いたら何かを咥えながら道を四つん這いで歩いていた。


それを周りが恐怖に怯えながら電話やら悲鳴やらを上げて逃げていた。


口からは血の味と固い皮膚を噛んでいるような感覚を味わっていた。


人の腕だった。


私はまるで獣が獲物を持ち帰るが如く人の腕を腕に咥えていたのだ。


それに気付き咄嗟に咥えたものを話した後に壮大に吐いた。


吐いた跡には血が混じり、得体の知れない齧ったであろう肉の塊のような物が出てきた。


その後私は逮捕された。


持っていた腕の主は近所に住む50代の女性であった。


経緯は分からないがどうやら私の玄関で恐怖にのたうち回ったかのような顔で身体が切り刻まれたような死体で発見されたようだった。


結局、私は心神喪失により無罪にはなったが変わりに折付きの病院に入ることになった。


不思議と怖くないし申し訳ない話だが人を殺したという実感がないからかここに入った理由が理解できない。


何年も経ち、やっと出られた頃には文字通り心身は昔の酒を呑み暴れることを快感としていたあの時の自分ではなくなっていた。


家に帰るが親がもう売り払っており私は、実家で監視されながら日々を生活するようになった。


だがもう酒に逃げることはないという安心感で今は日々の生活を充実させている。


結局、防犯カメラの中の事などすっかり忘れてしまい、その後がどうなったかわからないままだ。


ただ親の見る目が凶暴な獣を見て怯えているような気がしてしまう。


早く蟠(わだかま)りをなくし、元に近い関係に戻れると良いな…そう想いを募らせながら今後は私も行きていくことにしていくと決心した…。











〇〇警察署殺人課〇〇〇〇警部

これからここに記すのは、とある狂気的事件の不可解で不条理な出来事が起きたためにそれを誰にも話すことが出来ず、せめて記すことにより誰かの目に止まってくれればとこの記録を書くことにした。


私が○○月○○日に担当した○○県〇〇市の住宅街の一軒のことである。


これは〇〇市の住宅街に置いて、家の中が騒がしく注意を促しにいった被害者〇〇氏が家主の〇〇氏によって腕を千切られ殺害された事件である。


しかし事件の内容を探っていく内に不可解さが目立つようになり、結果容疑者〇〇氏を逮捕したが結局は〇〇精神病院に入院させることとして解決に至らせることにした。


だが私は捜索中に出てきた防犯カメラを見て唖然としてしまった。 


これは誰にも見せることが出来ずこの長い警察人生の中で初めて自分で物的証拠を処理してしまった。

あれはこの世のものでは無い…。


あれは獣であった。


獅子の様に髪が鬣になり、手の爪が異様な長さと鋭さになり四つん這いになってその辺りのものをひっくり返したり傷をつけてたりしていた。


人が酒を呑むと酔って暴れるのは知っているし私も何度もそういう輩の相手をしてきた。


だがあれは…あれはそんな人がただ酒によって暴れたなどいう軽いものではなかった。


この世のものとは思えない変化、妖怪を見ているかの様な異様な光景をまじまじと見てしまった。


そして玄関のチャイムが鳴ったと共にソレは素早く反応し向かっていった…そして人の悲鳴と何かの咀嚼音と骨が引き千切る様な生々しい音…こんな、こんな不条理で異様でこの世のものとは思えない映像を他の人に見せるわけにもいかない…そう本能のようなものが私を動かしたのは間違いなかった。


気がついたらその証拠を処分してしまっていた。


周りには間違えて落としたという言い訳をしてしまい、勿論始末書などを書き、上からは怒られたがそんなものこの映像がなんかの間違えで世に出る可能性が少しでも出てしまう事を考えればマシな事だと納得させた。


ただそれを胸の淵にしまえるほど私も懐が大きいわけではなかった。


日々が苦しく何度も誰かに言おうとしたがもし話してしまえばソレがもしかしたら私を襲うかも知れない…被害者の様に喰われるかもしれない…それが怖く結局だれか見るかも分からないこの日誌に記録することにしたのだ。


誰かが見なければいいし見たら気をつけたほうが良い。


私は、もうあの獣の様な金属音がこすれ合うような声を聞きたくない。


あれを見てから私は酒を呑むようになってしまった。


まさに暴飲であり、そして気が付けば辺りが荒れるようになっていった。


私ももしかしたらそうなってきているのかも知れない。


もう遅い…遅…遅…遅…。





覚悟シロ。




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