第13話 こってこて

 ひどい自己紹介だった。態々自分から好きな男のタイプなんて言っておきながら秘密なんて面白みもない解答をするという黒歴史を生み出すという最悪の結果となってしまった。


 でもこれは罠でしょ。僕だって好きで言ったわけではないんだよ。


「好きな男子なんていないよ……。ってか、僕は恋愛とかしたこと無いし……」

「まあまあ、れんちーが馬鹿正直にタイプの男子について発言しようとした時はあたしも驚いたけどさ。純粋でいいじゃん!」

「恥でしかないよこんなの!」


 僕は女の子が好きなんだ!男に興味はないんだ!頼む誰か信じてくれ。


 入学早々ちょっとした黒歴史を作ってしまった。はあ……。まあ仕方ない。ここは割り切って考えるしかないか。


 自己紹介と役員決めも順調に進んでいる2日目の2限終わり、一年生は一週間くらいは午前授業となる為もう半分終わった形だ。放課後は部活動の見学ができると言うことなので今のうちからどの部活を見学しようかと天野さんたちと相談している。


 運動部は除外して考えることになっている。体型は誤魔化せないという理由から、僕は運動部を避けているのだ。


 基本的に、この世界の体育の授業というのは男女別で行われる。しかし、僕の場合はどうなるのか。これは少し疑問に思ったため担任の先生に確認を取ったところ、特殊な事情による見学という形を取っても構わないとの回答を頂いた。


 体型はジャージを着ることで誤魔化すことができるし、暑い夏は制服姿のままでもオーケーとのことだ。ってか、西島君とか数少ない男子は体育の授業とかどうするんだろうか。こういう場合は除外されたりするんだろうか。


「僕はもう自分の中で文芸部に入ることが決定してるんだけど、まあ見学は面白そうだからしよっかな」

「もしかしたら文芸部よりもれんちーが気に入る部活があるかもしれないよ?それに、ウチって結構マンモス校だし、同好会とかもあるんだよね」


 意外と生徒の活動に対して寛容な学校なんだよね。この学校。


「男性研究同好会なんてのもあるっぽいよ?」

「犯罪臭がするからそこは遠慮しておこうかな」


 別に研究する必要ないし。


 不知火さんは漫画研究部に入ることが決まっているし、この3人の中だと天野さんだけがまだ部活について考えてるって感じか。天野さんもアニメ鑑賞が趣味だと言っていたし、漫画研究会に入るのだろうか。


 そんなことを考えていたら、後ろから聞き覚えのない声が僕たちに掛けられた。


「少々よろしくて?」


 あーさっき自己紹介で強烈なキャラを見せつけてた人だなーと僕は思いつつ、声をかけられた以上は反応しないわけにもいかないので振り返る。


「貴方が井垣さんでよろしくて?」


 そこにいたのは、如何にもお嬢様と言った容姿をしている女子生徒であった。あと口調。銀髪縦ロールにちょっと高飛車っぽい表情。意外とバストがあるその姿は主に前世でよく見たお嬢様キャラそのものであった。


「そうだけど。貴方は……」

九条離音くじょうりおんですわ。以後お見知りおきを」

「はあ……。ご丁寧にどうも」


 やはり思う。キャラが濃い。この世界だとこのくらい普通なのだろうかと常々思う。いやしかし、こういうところで疑問を抱いているから、未だに価値観が前世基準なのではないだろうか。あまり深く考えることはよした方が良いのかもしれない。


「それで、僕に何の用かな?」

「決まっていますわ。貴方にはこのわたくしと交流する権利を差し上げます」


 こんなにこってこてな高飛車お嬢様って今日日見ないんだけど?

 

 プライドが高いのか恥ずかしいのか、つまりは僕と友達になっても良いよってことを言っているんだろうけど、言い方が婉曲かつ上からなので僕も確認として聞き返す。


「えーっと、つまり……?」


 そうしたら、九条さんは少し不機嫌そうな表情になった。

 その直後、九条さんの後ろから長身でボーイッシュなスポーティ美女がやってきた。ちなみにお胸がデカい。


「つまり、離音の友達になってくれないかな?ってことなんだ。紛らわしくてごめんね?」

「ちょっと、鷗!わたくしの高尚な表現をそのような凡庸なものにしないでくださいませんか!」

「まあまあお嬢。ここはただの私立高校なんだし、もっと砕けた表現をしなよ」

「ふん!なんでわたくしがそのような煩わしいことを……」


 うわー……。テンプレみたいなお嬢様とそのお付きの人だ。

 今のやり取りだけでこのお嬢様の実家が太いことが分かる。上流階級の人だろうか。


 それにしても、九条さんを窘めたこのスポーティな美少女はスーツ姿が似合いそうなイケメンだ。身長も170cmくらいはあるだろう。少なくとも僕より高い。


「急にごめんね。ボクは二階堂鷗にかいどうかもめ。このお嬢の身の回りの世話をしてるんだ。お嬢は素直じゃないけど、仲良くしてくれると嬉しいな」


 そう言って、二階堂さんは爽やかな笑みを浮かべる。イケメンだ。


「全然いいよ。それに、二階堂さんも僕と仲良くしてくれる?」

「……ふふっ、もちろん」


 やっぱイケメンだぁ……。


 二階堂さんの神対応に惚れ惚れしていると、不知火さんが恐る恐る口を開いた。


「あ、あの……。九条さんってもしかして、九条家の……?」

「あら、今更気が付いたんですの?そうですわ、わたくしはかの九条家の人間ですことよ」


 九条家って。かつての九条財閥の家か。なんでそんな所のお嬢様がこんな学校に通っているのやら。もっと格の高いところに行きなよ。


「お嬢はあんまり頭良くないもんね」

「うるっさいですわね!違いますわよ、わたくしは普通の学校生活というものを経験してみたかったのです!断じて学力の問題ではございませんわ!」


 今のでちょっと怪しくなったね。まあ、どっちだっていいか。普通の学校生活に憧れるのはちょっと理解できなくもないし。というか、多分西島君が一番共感できるんじゃなかろうか。僕には前世の経験があったし。


「まあ、僕も友達が欲しかったところだし、九条さんも二階堂さんもよろしくね。庶民の生活が知りたかったら僕が教えてあげるよ」


 カップラーメンの作り方とか知ってる?まあ流石に知ってるか。

 九条家の人間というのは確かに凄いけど、僕にはあんまり関係ないかな。お金なら政府から貰ってるし。税金生活やで。


「それにしても、二階堂さんはイケメンだよね。スーツとか似合いそう」

「……君に言われるとは思わなかったかな」


 新たな友人というのは嬉しいものだね。

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