凛
葵竜 梢
1
有給休暇。一ノ世
だけど、近頃ひっきりなしに叫ばれている“多様性”という言葉の押し売りには、少々息苦しさを感じているひとりでもあった。
人生初の北海道。ダウンコートの下はもちろん、重ね着に重ね着を重ねている。ニット帽にマフラーに手袋、そして例のパンデミック以来、意外と防寒に役立ってくれると知ったマスク。北の大地での防寒対策は万全だ。
先端の黄色い翼に愛らしい白くまのマスコットが微笑む、小さな旅客機に搭乗するのも初めてだった。機内では、温かいホタテスープが注文できるみたい。周りの人は、みんなそれを飲んでいたけれど、許愛はスープの気分ではなかったので、ホットコーヒーを選んだ。
離陸してしばらくは、各座席に用意されているパンフレットに目を通す。ここは空の上、暇になると、小窓から外界を見やる。どこまでも続く雲の上。太陽しかない世界線、そこには誰もいなくて。でも光に満ちて、静かで、平和だな。
向こうから天使たちが、ふらりとやって来そうな光景に、許愛は心地よくまどろんだ。
——まもなく、着陸態勢に入ります——。
機内アナウンスで、意識が戻る。小窓越しの地上は、山肌がうっすら雪化粧をしていた。ときどき現れる巨大な白い大地は、実は大地ではなく、氷った湖だった。
これはきっと極寒だろうと、覚悟を決めて降機の支度をする。
が、いざ女満別空港へ降りてみると、そこは春の陽気。期待していた寒さに晒されることはなく、拍子抜けであった。ツアーガイドさんも興奮気味に、札幌の雪まつり会場で、展示作品のほとんどが溶けてしまったのだという最新ニュースを、ツアー参加者たちに向かって説明してくれていた。
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