第2話 兄の影

 グラコロ刑事の目には、少し光を帯びた思い出が浮かんでいた。代々木警察署のベテラン刑事である兄、ケンジのことだ。ケンジは10年前、2014年に殉職した。兄がこの道を選び、そしてその命を捧げた理由を、グラコロは今でも理解しきれない。


 10年前の事件。それは一見平穏な日常を送りつつあった代々木で、突如として起こった無惨なものだった。ケンジは、ある大規模な麻薬密売組織の摘発に関わっていた。しかしその捜査は裏で操られていた。組織の背後には、市内の警察幹部が関与していた可能性もあり、ケンジはその事実に辿り着いた矢先、命を奪われた。


 兄の死後、グラコロは彼が残した手帳と共に、その真実を追い続けている。だが、どれだけ調査しても明確な証拠は出てこなかった。捜査も停滞し、兄の死は未解決のままだった。今でもそのことがグラコロの胸に重くのしかかっている。


「グラコロ、何か考え事か?」

 突然、ビッグマックの声がグラコロを現実に引き戻す。

「いや、何でもないです」

 グラコロは無理に微笑んだ。しかしその目の奥には、確実に兄の影がちらついていた。


 事件が進展するにつれて、グラコロはある疑念を抱き始めていた。このマクドナルドの裏で起きている何かが、兄の死と繋がりがあるのではないかということだ。ケンジが関わった麻薬密売組織の背後には、まだ誰かが潜んでいるような気がしてならなかった。


「ちょっと、聞いてくれ」

 グラコロはピクルスに声をかけた。

「どうした?」

 ピクルスは冷静に振り向く。

「兄貴が死ぬ前、代々木周辺で何か大きな事件が起きてた。今、ここの事件がその伏線に思えてきたんだ」

 ピクルスは目を細めると、「それは…確かに興味深いな」と呟いた。


 その時、シェイクがまた現れた。顔色を真剣にしている。

「グラコロ、後ろに誰かいるぞ」

 シェイクが低い声で言った。

 グラコロは素早く振り返ったが、そこには誰もいなかった。しかしその瞬間、再び店内に不自然な気配を感じた。何かが動いている。その違和感は、ただの偶然ではない。

「気をつけろ」ビッグマックが警戒を強める。

 その直後、バックルームから再びあの人物が現れた。フィッシュだ。だが、今回はただの詐欺師ではなく、グラコロの想像を超える情報を握っている様子だった。

「君たち、今度は本気で裏をかこうとしているのか?」

 フィッシュはにやりと笑う。

「お前、何を知っている?」

 グラコロは一歩前に出る。

 フィッシュは笑みを崩さずに答える。「君の兄貴が死んだ本当の理由も、俺は知ってる。けど、まだ君にはそれを教えたくないな」

 その言葉にグラコロは凍りついた。フィッシュが語る「本当の理由」とは、一体何なのか?

 その時、ナゲットが背後から声をかけた。「待て、グラコロ。こいつは俺たちのターゲットだ」


 だが、フィッシュはすぐに身を翻し、走り出した。その後ろ姿を見たグラコロは、兄の無念を晴らすために、決して諦めないと心に誓った。

「待て!フィッシュ!」グラコロはすぐに追いかける。


 追跡の途中、グラコロの心には一つの決意が芽生えた。もしフィッシュが言うように、兄の死に関わる秘密がこの事件と繋がっているのなら、すべてを暴かなければならない。何があっても、兄が命をかけて守ろうとした真実を、グラコロは明らかにしなければならないのだ。


 走りながら、グラコロの頭に浮かぶのは兄ケンジの顔だ。あの日、兄は何を思って命を落としたのか。その答えを、今こそ探し出す時が来た。



 

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