第25話 風邪のまにまに
勉強会は無事(?)に終えることができ、あとはテストまでに積み重ねていく形となった。
なのだが……。
「ゲホッ! ゴホッ! あァ〜〜……完ッ全に風引いた……。全身筋肉痛だよぉ……だるいよぉ……!!」
朝、目が覚めると当時にやってきた倦怠感と寒気。咳も出るし、鼻水も垂れてくるし、完全に風邪を引いてしまった。
「最近風邪引いてなかったのにね〜。今日は学校休んじゃいなさい」
「うぃ……」
ピピピッと鳴る体温計を確認した母さんはそう言い、この部屋を立ち去る。
これ以上目を開けていると、ぐるぐると回り出している天井で頭がおかしくなりそうだ。さっさと寝て早く治しちまおう。
俺は目を閉じ、風邪の時特有の悪夢を見ませんようにと願いながら意識を手放した。
# # #
―夏織視点―
「……まさか早退させられるとは……」
平日の時計の針は上を向いている時間帯だが、私はすでに帰路を辿っている。
芹十が風邪を引いたと聞いて私も休もうとしたが、ママに止められてそのまま学校に行かされた。だが、心配になりすぎて禁断症状が出始め、『お前怖いで早退しろ……』と言われ、早退させられたのだ。
まぁ何はともあれ、無事に芹十に会いに行くことができてヨシ!
「おじゃましまーす。……って、芹十のお母さんお出かけ中かな」
芹十の家に到着して扉を開けようとしたのだが、鍵がかかっていたので合鍵を使って中に入る。
部屋で一人……高熱……孤独死……!?
カバンを地面に放り投げ、芹十がいる部屋へとダッシュで向かった。
「芹十大丈夫!?」
「うぅぅ……肉まんの悪魔がいる……。デビルハンターを呼べ……」
「大丈夫だけど大丈夫じゃなさそう……」
芹十はベッドで眠っていたのだが、わけのわからない寝言を呟いている。
ひとまず一安心してホッとするが、苦しそうに汗をかく姿は見ていられなかった。
何かしてあげたいけど、無理に起こして風邪を悪化させたら申し訳なさすぎる。
私は額に張り付いている常温に戻った冷却シートを替え、ベッドの傍でただただジーっと寝顔を見続けた。
「ん……うーーん……?」
「あ、芹十起きた?」
唸り声を上げ、まぶたを少しだけ開けてこちらを見る芹十。状況がつかめていないのか、黙ったまま動かない。
しかし次の瞬間、
――グイッ。
「へっ?」
腕をガシッと捕まれ、獲物を巣穴に引き込むように私を布団の中へと引っ張ったのだ。それだけでなく、私を抱き枕のようにして寝始めてしまった。
「は、はわわわわわわ!!? な、なななな何を……っ!?!?」
「だきまくらゲットだぜ……」
おそらく、いや、確実に寝ぼけている。
私は昔から風邪をひきにくい体質で、これくらい近づかれても多分大丈夫だから問題ない。……だが、色々と大丈夫ではない。
(こ、こんな熱烈なハグをまたされるなんて……! うへへ♡ こんなにしてくれるならまた風邪にでも――)
〝また風邪にでもなってくれればいいのに〟。そんな考えてはならない、最低な考えが私の脳裏によぎってしまった。
自分自身の考えに嫌気がさして、先程まで感じていた幸福感はとうに消え失せる。
こんな奴が芹十の風邪のお世話をしていていいのかと思い始め、抱きついている芹十を剥がそうとしたのだが、離れようとしなかった。
「せ、芹十……?」
「……大丈夫だぞ、夏織。そんな、不安そうな顔しなくても……。お前はいい奴だから……」
「へっ!? えっと、それってどういう……」
「ぐおぉー……」
寝ぼけ眼で私を抱き寄せて頭を撫でたかと思えば、電池が切れたように再び意識を手放す。
心音が部屋中に響きそうなほど高鳴っており、風邪をひいていないはずなのに私の顔も熱くなってきていた。
本当に芹十は優しい……。こういうところがやっぱり好きだなぁ……。
この後私は、帰宅した芹十のお母さんに任せることにして家に帰宅することにした。
絶対にテストで良い点を取って、心中なんかさせやしない。それに、私のために色々してくれているんだ。恩を仇で返すことは絶対にしない……!!
「よし、やるぞっ!」
手を掲げ、やる気を出して勉強をするのであった。
# # #
「う、うーん……」
「あら、起きたのね。お粥作ったけど食べる?」
次に俺が目を覚ますと、体は幾分か軽くなっていた。母さんが運んできたお粥で腹の虫も鳴き始める。
まぁ、結局よくわからん悪夢に魘されていたような気がするけれどな。
「あ、そういえば夏織ちゃんに後でありがとうって言っときなさいよ〜?」
「んぇ? なんで?」
「お見舞いに来てくれてたのよ。あと冷却シート貼り替えてくれてたのよ〜?」
「ほぇー。……ん? あいつ授業どうしたんだ……?」
なんか夢の中でアイツと会ったようなそんな気がしたが、頭痛で思い出すことができない。
まぁ、そう大したことじゃあないだろう。
そう楽観的に考え、俺はおかゆを食べ進めるのであった。
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