第26話 勝敗とピザとモッツァレラ
無事風邪も治り、夏織にも感染らずに済んだ。
そしてやってきた期末テスト。俺と冬姫は難なく百点満点を取れた気がするが、果たして香織はどうなったのだろうか……。
――期末テストから数日後。
運命の結果発表当日がやってきて、玄関近くの掲示板にテストの点数結果が貼り出されていた。
絶望に打ちひしがれる声や嬉々とした声が聞こえてくるが、今回はどよめきが多い気がする。
「全科目百点満点!!?」
「しかも二人もいんじゃねぇか!」
「冬姫様と……誰だコレ」
「せり、と……ってあの芹十!?」
「あの人勉強できたんだ!!」
「仲間だと思ってたのに……」
「もうダメだ、おしまいだぁ……」
まぁ妥当な結果だな。
いつもは問題の分析や先生の授業中の発言から平均点の計算・推測に全神経を集中させていた。
しかし、今回は全力で百点を取りにいくということから、使っていた神経を凡ミス潰しに使っていたからな。
俺と冬姫は特に喜びもせず、つまらないものでも見るようにてっぺんにある名前を見つめていた。
「芹十くん、やはり百点満点を取るのは簡単すぎてつまらないですね。ワタクシも平均点の計算をして狙って取ってみたいです!」
「正直言ってくッッそ面白い。ドンピシャだった時は脳汁出る。だがやめとけ。親御さんを悲しませるな」
「そっくりそのままあなたに返しますが……。けど、一年生時のテストなんて多少巫山戯ても大丈夫でしょう?」
「まぁそうだが……。お前ん家って結構自由な感じなのか。アッチとは大違いだ」
周りからは「あれが天才たちか……」とか「ついていけねェ!」という感嘆の声が聞こえてきている。
それは冬姫も俺も、とうの昔から浴びせられていて聞き飽きている。うざったいことこの上ねェ。
「うぉ〜〜! 54位だったっス〜!! なかなか良い順位じゃないっスか!?」
「晶くんはすごいなぁ!! ヨォ〜シヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシ!!」
「な、撫でないでほしいっス!!」
小柄故にこの人混みの中のせいで気づかれないと思っていたのか、ピョンピョンと跳ねながらやってくる晶くんという名のマイエンジェル。
思わず髪がボサボサになるまで撫でてしまった。
……と、そういや夏織はどうだったんだろうか?
キョロキョロと辺りを見渡すと、眉間にしわを寄せている夏織の姿が目に入る。
「夏織、結果はどうだった?」
「中の下、くらい……? それぞれの科目は平均くらいだけど、危ないのも多々……。うぅ……もしダメだったらどうしよう……」
「ダメでもいいだろ。まだまだライフはあるし、この経験が次の勝負の糧となる……ッ!」
「…………。えへへ、そう、だね。ありがと、芹十」
「おうさ」
不安げな表情はやはり拭えていなくて少しぎこちない笑みだったが、喜んでいるのもまた確かだろう。
そしてどうやら、晶くんが予め俺たちの点数をまとめて結果を出してくれていたらしい。なんて良い子なんだ。
俺たちは期末テストの打ち上げということで、近くのファミレスで結果発表をすることとなった。
「コホン。では結果発表するっスよ?」
ファミレスにて、俺と夏織、そして机を隔てて冬姫と晶くんが座る形となっていた。
隣では唾を飲み込んでガチガチになっている夏織だが、冬姫は優雅に紅茶を飲んでいる。対照的な二人である。
「えー、全13科目の中で、セリくんサイドが勝った科目は――7科目っス!!!」
「……ふふ、どうやらワタクシは負けてしまいましたか」
「え、勝った……? 勝ったの!!?」
「そうみたいだな。お前のおかげだぞ、夏織。俺の奢りだ! 好きな料理じゃんじゃん注文しやがれェ〜〜い!!!」
「ぃやった〜〜っ!!!!」
端末で注文する形なのだが、ピザやらモッツァレラチーズのハンバーグなどなど……。多くの注文をしていた。
奢りと言ったことに後悔し始めてきた。コイツ遠慮が全くねぇ……!!
ひとしきり注文を終えると、夏織は俺の腕に抱きついてむふーっと鼻息を出して冬姫に向かって嗤う。
「ふふん。これが私と芹十の絆だから。あんたには無いかもしれないよね〜?」
「ぐぬぬ! ずるいですよ汐峰夏織っ!! 待っていてください、今そちらに向かってやりますわ!!!」
「ちょ、お嬢サマはしたないっス! ここレストランなんで自重して欲しいっす〜!!」
「なァ〜にやってんだか……」
夏織の煽りにまんまと炊いて、こちらに向かおうとしてきた。……机の下から。
晶くんもこのおてんばお嬢様を大人しくするのに手を焼いていそうだな。胃痛も痛くなりそうだ。
呆れつつ、ドリンクバーから持ってきたメロンソーダを飲んだ。
「あ、そういや何か一つなんでも言うこと聞くって言ったが、決めたか?」
「へっ!? あ、あー……そういえばそんなことあったね……。そうだなぁ」
どうやらまだ決めていなかったらしく、うーんと唸りながら考え始める。
するとなぜかにやけ始めたり、眉間にしわを寄せたり、さらには顔を真っ赤にするではないか。
「そ、そんな……私たちまだ高校生だからあんなことは……ぐへへ♡」
「何考えてやがんだテメェ……。悪いが度が過ぎたものは受け入れられないぞ」
「大丈夫! 絶対に受け入れてもらうから……♡」
「ヒェッ」
その視線はまるで、肉食獣や猛禽類のような捕食者特有の鋭い瞳だった。俺は思わずヒュッと息を飲む。
「なんでも」とか言うんじゃなかった。後が怖いし胃が痛くなってくるぞコレ……。
「ズルイです! ワタクシも何かなんでもして欲しいです!!」
「そんな安売りはしてねぇ! おとといきやがれ!」
「ひどいです芹十くん!!」
……ま、なんやかんやで期末テストも乗り越えることができたし、これで心置きなく待ちに待った冬休みが始まるな。
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