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四十九院紙縞

(1)――「ああ、だから図書館なのか」

 本を読むということは、本来、もっと冒険的であったはずだ。

 数多ある本の中から己の琴線に触れるものを選び抜く様は、宝を探し出すような、希望に満ち溢れている行為であったはずなのだ。

 誰の意見も評価も必要ない。孤独で、しかし安心感のある、他には替え難い素晴らしい冒険の旅。

 だから私は昔から本屋や図書館が大好きであった――ように思う。

 現に今だって、私は図書館の前に立って居る。

 だが、どうにも記憶が曖昧だ。

 この図書館を訪れる以前の記憶が、ない。

 私は何者で、どこで生活を営んでいる者なのだろう。

 わからない。なにひとつとして、わからない。

 考えれば考えるほど、正体不明の己に対し、途轍もない嫌悪感が増産されていく。

「ああ、だから図書館なのか」

 不意に、私は自分が立っている場所に納得した。

 図書館には、調査相談窓口というものがある。そこでは様々な疑問について、膨大な資料の中から確実な一次資料を提示してくれるのだ。

 私は、自分のことを知る為に、図書館へ来たのだ。

 そう納得する自分と、図書館で人生相談の類は受け付けていないと否定する自分が、脳内で戦いを繰り広げている中、足は勝手に館内へと向かっていく。

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