第2話 6月21日(月)②

応援コメント、☆、ありがとうございます!

それでは、どうかお楽しみください。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


クラス中が、小鳥遊さんを責める空気に染まっていた。


胸糞悪いぜ・・・

思わず立ち上がった俺を、隣の柑奈が心配そうに見つめていた。


「おい、小鳥遊さんは知らないって言っているだろ。

小鳥遊さんより、誰が送ったか分からない、怪しい動画を信じるのか?」

デカい声を出してやると、向こうにいる陽キャどもからキツイ視線を受けた。


「なに、カッコつけてんの?」

「ここで味方したら、ヤラしてくれると思ったんじゃね?」

「しまった!オレもそうしときゃ、よかったぜ!」

「マジ、それな!」

アキラ、浩明が俺を睨みつけたが、言葉だけははしゃいでいた。


「そうだよ。カッコつけてるよ。

お前ら、自分でカッコ悪いとか思わないの?

小鳥遊さんだぜ?こんなことやるワケないだろ?」


俺はクラス中にアピールしてみたが、みんな黙ったまま顔を見合していた。

そして、アキラ、浩明に睨まれたクラスメイトは視線を逸らしていた。

くぅ~、俺とアキラの影響力の差が出てしまった!

俺には人気も怖さも何にもないからな・・・


さっきまで、クラス内の小鳥遊さんの支持率は100%だったハズなのに、

今、小鳥遊さんの味方をするものはボッチの俺、ただ一人となっていた。


「ボッチがはしゃぎやがって!」

「自分もワンチャン、イケるんじゃねって勘違いするバカ!」

「ゲス!」

クラスの陽キャどもに集中砲火を浴びせられ、孤立無援の俺は言葉を発せなくなってしまった。くそっ、なんて俺は弱いんだ!


「みんなに知らせないと!」

生徒会の副会長で、小鳥遊さんの親友を自称していた香織が呟くと、みんな自分の友人たちに知らせ始めた。

これまでずっと周りからチヤホヤされていたのに、たった一つの、15秒ほどの動画でクラス全員が敵に回ってしまった小鳥遊さんは茫然としていた。



放課後、家に帰るとイヤな気分を振り払うため、ド派手なサイクルウェアを着て、

高校入学祝いに買ってもらったお気に入りのロードバイクに跨った。

日が暮れるまで3時間あるから、今日は西に20キロ走ろう。


我が家は街中なので、最初はゆっくりと進んでいた。


駅への通りの歩道で、制服の女子がたった一人でゴミ拾いをしているのが見えた。

小鳥遊さんだ!


以前は、高校と最寄駅の間の歩道にはお菓子の袋やペットボトル、ジュースの缶なんかがたくさん落ちていた。

だけど、5月に小鳥遊さんが生徒会長になってから、週1回、生徒会や大勢の仲間たちとゴミ拾いをするようになるとたちまち綺麗になったんた。


昔から学校ではずっと、ゴミを捨てるな、街を綺麗にって啓発していたハズだけど、そんなのは効果が全くなくて、小鳥遊さんの行動によって落ちていたゴミが無くなり、生徒たちはポイ捨てをしなくなって劇的に改善されたのだ。

当時、カリスマってこういうもんなんだって思ったよ。


ちなみに週に1度、俺は帰る途中にコロッケを買い食いしているのだが、

そのコロッケ屋のおじさんは小鳥遊さんの行動にすっごく感謝していた。

コロッケなんかを包んでいる紙袋も道端によく落ちていたから、

おじさんは何年も週に1度、店を閉めてからゴミ拾いをしていて、

ゴミが無くならないことに悔しい思いをしていたらしい。


小鳥遊さんは、いつも大勢の仲間と楽しそうにワイワイいいながらゴミ拾いをやっていたのに、もう、一緒にしてくれるヤツは誰一人として、いなくなってしまったんだ!

もう、他のクラスはおろか、他の学年まで、あの動画が広がっているんだ!

そして、あの動画の女が小鳥遊さんだって信じられているんだ!


そのことをちゃんと分かっているハズなのに、小鳥遊さんは淡々と、ゴミ拾いを続けていた。


すると、見知らぬ男子生徒が2人、コロッケを食べながら歩いていた。

そして、ニヤニヤしながら、小鳥遊さんの目の前にポイっとゴミを捨てていた。

小鳥遊さんは綺麗な笑顔を浮かべて「さようなら。」ってその男子に声を掛けると、

目の前に捨てられたゴミを怒りや諦めなんかを現わすことなく拾い上げていた。



その日の夜、同じクラスの柑奈からラインが来た。

柑奈とは高2になって席が隣になってから話すようになったんだけど、

ゴールデンウィークに偶然、駅前で出会って、互いに時間があったのでカフェで

1時間ほど話をして、さらに中間試験の前には1度、図書館で一緒に勉強していた。


クラスではあんまり話さないけど、メッセージのやり取りは割としていて、

クラスで一番仲がいい友達だ。

ちなみに、柑奈は、高1の時に同じクラスだったリア充グループの香織と

よく遊びにいっていた。


『ちょっといいかな?』

『どうかした?』

『小鳥遊さんのことなんだけど・・・』

『嘘なんかつかないし、パパ活なんてもっての他だと思うんだけどなぁ』

『信じているのは恭介だけだよ。あの子の顔がいいからって何でも信じちゃダメだよ?』

『・・・もう、やっちまったけど』

『アキラと香織に謝ったほうがいいよ』

『だよな・・・そういや、隆志はどうしてたっけ?』

小鳥遊さんを非難はしていなかったけど・・・


『・・・小鳥遊さんを庇おうとはしていなかったよ』

『そうだったよなぁ・・・いやだなぁ・・・

でも、イジメられたくないしなぁ・・・

はぁ、まぁ、考えておくわ』

『もしかしたら、恭介の方が酷い目に遭うよ』

柑奈の口ぶりは本当に心配そうだった。


『そうだよなぁ。ありがとう』

・・・さて、どうするか。

明日が憂鬱だよ。

小鳥遊さんへのイジメを見たら胸糞悪いだろう。

だけど、小鳥遊さんの味方をしたら、俺までイジメられるんだよなぁ・・・

どっちもイヤだなぁ・・・


眠って、明日の朝の気分で決めちまおう!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る