高校のパーフェクトな生徒会長がラブホに入る動画が広まってリコールされ、再選挙までの1週間

南北足利

第1話 6月21日(月)①

俺のいる2年1組には全校で見てもトップカーストが男2人、女1人いる。


まず、アキラはアイドルと言っても過言ではないイケメンで、

SNSにあげた『オレ、歌ってみた!』で軽くバズっているらしい。


次に、隆志は野球部のエースで4番、隆志の活躍で秋の県大会でベスト8まで行って、我が校は21世紀枠に県から推薦されたんだ。

結局、甲子園はダメだったけど、もしかして夏には行けるかもって野球部は活気づいているらしい。


休み時間になると、アキラや隆志までがいつもどおり、クラスの、

いやこの学校の中心と言って過言でない少女の元へ近づいていった。

その少女は1か月前、圧倒的な得票数で生徒会長に選ばれた小鳥遊姫都美たかなしひとみだ。


小鳥遊さんの背は170センチくらい、足が長く、素晴らしいスタイルをしている。

そして、肩甲骨までの黒くて艶やかな髪が美しくて、

その切れ長の瞳は知的に輝いていた。

少し冷たい印象を与えるその完璧な美しさはトップ女優と紹介されても納得いくくらいだ。


そのうえ、春の全国模試では全国1位だったらしい。

ちなみに我が校は田舎の県立高校で、学区内ではナンバー1の進学校だが、

田舎の国立大学に現役で合格すれば凄いって言われるくらい、微妙な進学校なのに、だ。例えていうなら、犬の群れの中にいるシベリアトラなのだ。


だからといってツンと気取っているワケではなくて、陰キャやオタク相手でも

気さくに話していることがあって、よくコロコロと笑っていて、

さらに面倒見がいい、本当に完璧な女の子なんだ。


うちの高校の生徒会長は、大学への推薦を目的として毎年、何人かが立候補しているそうだ。

本来、小鳥遊さんは純粋な学力だけで東大だって間違いない位だから、推薦なんて必要ない。だけど、余りに人望がありすぎてみんなから頼りにされ、勧められたから立候補してみたら得票率90%超えといううちの高校の歴史上、ナンバー1の得票を集めたのだ。

その演説を聞いたらもう、小鳥遊さんに入れるしかないわってくらいのカリスマ性だった。属性、てんこ盛り過ぎ!


当然、モテにモテているらしいけど、彼氏はいないらしい。

ちなみに、アキラは小鳥遊さんと同じクラスになって、彼女と別れて小鳥遊さんに告白したらしい。駄目だったのに、まだ口説いているとは凄いわ。


もう一方の隆志は流石学校の英雄、ブサメンだがモテる。だけど、ファンの中に可愛い女子がいないってぼやいていた。小鳥遊さんのことが好きなのはバレバレだから、クズっぽいわ。


小鳥遊さんに話を戻すと、彼女が生徒会長に就任すると、理不尽で人気のなかった、歴史ある校則を、たった1か月の間に生徒の意見を集約し、先生たちと交渉し、廃止させたんだ。

・ツーブロックなどの特定の髪型の禁止

・髪の長さ、結び方の指定

・髪留め、ゴムの色の指定

・靴下の色、長さ等の指定

・下着の色の指定

・スマホの持ち込みの禁止

うん。なぜこの校則がこの令和の時代に残っていたか、意味不明だわ。


校則が変更され、高校生らしいオシャレが出来るようになった生徒たちは

益々、小鳥遊さんを崇めていた。そう、ホントの女神のように。


アキラや、隆志も凄い奴なのだが、ともに成績は下から数えた方が早く、

アキラは男子人気が全くなく、隆志はみんなからブサメンとの共通認識を持たれている、という弱点を持っていた。


そんなことを考えていたら、隣の席の柑奈が話しかけてきた。

柑奈は幼なじみで、友達がごく少ない俺に話しかけてくれる貴重なクラスメイトで、

小学校の時は一番と言っていいくらい仲良く遊んでいたのだが、

中学に入ってクラスが遠くなると、まったく話すことは無くなってしまった。


だけど、高2で同じクラスになって、しかも隣の席になったこともあって、

再び仲良くなってきたんだ。

小学校の頃は活発だったのに、今は小動物系の可愛らしさとなっている。


「ねえ、恭介、さっきの数学、ちゃんと解った?」

「おう、もちろんだよ。だけど、家に帰って宿題するときには解らないんだよなぁ。」

「だよねぇ。」

柑奈と二人、苦笑いを交わした。


うん?

珍しく俺のスマホが震えたので見てみると、クラスのラインにショート動画が添付されていた。だれか、調子乗りが面白動画でも上げたのかな?


柑奈との話が途切れていたので、ショート動画を見てみると、雨の夜、ネオンが輝いている所にカップルが相合傘で歩いていた。

男はだらしなく太っているが、長い髪が美しい女の方は素晴らしいスタイルで、姿勢よく歩いていた。

まったくお似合いじゃないカップル!

絶対、金目当てだな!


カップルが歩いていく先はけばけばしいラブホテルで、そこに入る前に女が振り向くと整った顔が見えた。

!!!

小鳥遊さんか?まさか!


小鳥遊さんに似た女がだらしなく太ったオッサンとラブホテルに腕を組んで入って、

その動画は終わった。

「この動画、小鳥遊じゃね~か!」

小鳥遊さんの傍にいたアキラが叫ぶと、クラス中がスマホを取り出し、その動画を凝視していた。


「えっ?ほ、ホントだ!この傘、姫都美がさしているの見たことある!」

「服もこの前、カラオケに行った時と似ているよ!」

陽キャの香織と咲綾が叫ぶと、小鳥遊さんは初めて動揺した様子を見せた。

「わ、私じゃない!他人の空似よ!」


「この顔はお前じゃね?傘も服も、お前、こんなの持ってんだろ?」

「私はこんな場所に行ってない!信じて!」

アキラの追撃を浴びた小鳥遊さんは金切り声で叫んだ。


「お前、パパ活してんのか?」

「へ~、いくらで売ってんだ?このオッサンは金持ちなのか?」

ニヤニヤしながらアキラが無遠慮に尋ねると、アキラの取り巻き浩明までが追随し、クラス中が騒めきだした。

「私じゃない!」

「でも、そっくりだよ!」

「へ~、上品なフリして、やることやってんだな、お前。」

「俺たちも相手してくれよ。」

「貧乏人は相手しないんじゃね?」

「金、降ろしてくるわ!いくらだ?」

「信じてよ!」

男子に下品に攻められた小鳥遊さんは動揺しまくりだった。


「信じているよ。この動画にお前が映っているって。」

「ああ。違うって言うなら証明して見せろよ。」

「そんな・・・」

いつも仲良くしていると思っていたが、勘違いだったようだ。

陽キャの男ども、親友を自称していた女どもは、「私じゃない」という

小鳥遊さんの言葉に全く耳を貸さず、誰が送ってきたのか分からない、

怪しいショート動画を信じて、小鳥遊さんを揶揄い、嘲笑っていた。


アキラも隆志も小鳥遊さんのことが好きだって思っていたけど、

アキラはチャンスとばかりに攻撃していて、

一方の隆志は責めもせず、守ろうともせず黙り込んでいた。


クラス中が、小鳥遊さんを責める空気に染まっていた。

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