第6話:雪月の1日に来た手紙への返事

 この手紙は対象A(自称トゥードル・ゲンジー)がクレメリア革命暦648年12月18日(雪月スナウディンの1日)に送った手紙に対してベーデン・モンバドゥール氏が送った返事である。

 お手紙ありがとうございます。トゥードルがここ、クレメリアの歴史に興味を抱いてくれた事を嬉しく思います。この世界、クレメリアには分かっている限り1万年以上の歴史があるのですが、いきなり歴史の授業が始まっても君が困惑するだけだと思いますので、掻い摘んでお話させていただこうと思います。

 まず、このクレメリアですが250年前まではクレメリア帝国というものがとても強い勢力を築いていました。クレメリア世界のほとんどを手中に収めていたのです。多くの国が帝国の属州となり、税や作物を搾取されていました。時代の流れが変わったのは700年ごろです。クレメリア最大の暴君、ロキス一世と呼ばれる皇帝が即位していた時のことです。彼は他の世界へ渡る特別な力を持っており、異界への侵略を進めようとしていました。そこで、軍拡のために、属州へ未曾有の大増税を行ったのです。それに反発した市民達が立ち上がり、ありとあらゆる場所で独立運動が起こりました。そう、トゥードルと私が日々を暮らすここ、クレイマリーポートもです。

 当時クレイマリーポートはクレメリア帝国における軍港の役割を果たしており、帝国にとっても重要な拠点でした。しかし、ロキス帝の政治に反発したクレイマリーポートの統治者でありクレメリア帝国海軍提督、ナルマー・クラーが独立宣言を発表して帝国と大戦争を起こしたのです。戦争は7年も続きましたが、ロキス帝が老衰で亡くなってから帝国の勢いは弱まり、君が手紙を書いた12月の18日に終戦協定と独立承認の調印が押されてクレイマリーポートという新たな都市が誕生したわけですね。その為、ここに住む人たちは独立を勝ち取った先祖に対してとても誇りを持っているわけです。なので、お祭りとして市場が賑やかだったんですね。

 そうそう、この街の人たちと関わるうえで知っておくとコミュニケーションが円滑になると思いますので、クレイマリーポートの住民の癖と言うか国民性を伝えておきましょう。彼らの多くは独立を自ら勝ち取った祖先を敬うため、誰よりも自主的でかつ困っている人に手を差し伸べる国民性が傾向としてあります。もし困ったことがあったのならば、気負いせず助けを求めるといいでしょう。ただし、助けてもらってばかりではいけません。普段いろいろな人のお手伝いを仕事として行っているトゥードルなら心配はいらないと思いますが、貴方も困っている人にその手を差し伸べるのですよ。お互いを助け合う心は必ずこの世界を生きる上で役に立つでしょう。


 追伸

 レモンリキュールと魚はとてもおいしかったです。独立記念日と言うめでたい日をこのようなごちそうで迎えられることをうれしく思います。トゥードルの世界ではカテイカと呼ばれる調理の鍛錬を義務付けているそうですね。10年ぶりくらいに作るからうまくいくか不安だとは言っていましたが、今日のシャケのムニエルは私の口を幸福にしましたよ。次は私の好物のヒラメで何か一品作ってほしいです。

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