第6話 背後に潜む影

 翌朝、ハルカはわずかに目を開けた。昨夜の不安な夢から抜け出すように、冷たい朝の空気が彼女を包み込む。レイはすでに目を覚ましており、廃屋の外で何かを確認しているようだった。


「おはよう。」


 ハルカが声をかけると、レイは振り返って軽く頷いた。


「おはよう。昨夜は少し休めたか?」


「うん…でも、まだ頭の中が混乱してる。」


 ハルカは床に座り込んで、拾ったデータドライブについて考えていた。それが自分たちの過去にどんな影響を与えるのか、未知数だった。


 ---


 廃屋を出た二人は、再び施設の周辺を探索することにした。デバイスから得られた情報を基に、地図に示された地点へ向かう。


「この方向だな。」


 レイが端末を見ながら先導する。周囲の風景は荒涼としており、かつて人が住んでいた痕跡がところどころに残っている。突然、レイが立ち止まり、ハルカに手を上げて合図をした。


「誰かがいる。」


 彼の視線の先には、黒い影が動いているのが見えた。影は二人に気づいている様子はなく、何かを探しているように見える。


「どうする?」


 ハルカが小声で尋ねると、レイは低い声で答えた。


「様子を見よう。もし敵対的なら、避ける。」


 二人は静かに身を潜め、影の動きを観察した。その人物は、防護スーツを着ており、手には装置のようなものを持っている。何かを探しながら、施設の方向へ歩いていった。


「追うべきか?」


 レイが迷っている間に、ハルカは意を決したように頷いた。


「私たちの手がかりになるかもしれない。」


 ---


 黒い影を追って進む中、ハルカとレイはやがて大きな施設の入り口にたどり着いた。施設の外観は、彼らが昨夜訪れた場所と似ているが、明らかに機能している様子だった。


「ここは…まだ動いているのか?」


 レイが驚きの声を漏らす。施設の入り口には警備用のドローンが飛び回っており、近づく者を警戒しているようだった。


「どうするの?このままだと入れないよ。」


 ハルカが不安げに尋ねると、レイは端末を取り出して解析を始めた。


「ハッキングしてみる。時間がかかるかもしれないが、他に方法はない。」


 彼が作業を始めたその時、再び黒い影が施設の裏手から現れた。その人物はドローンの動きを巧みに避けながら、施設の中へ消えていく。


「見たか?今の動き。」


 レイが目を見張る。


「まるで、この場所に慣れているみたいだった。」


「もしかすると、内部の人間かもしれない。」


 ハルカの推測に、レイは頷いた。


「なら、私たちも急ぐべきだな。」


 ---


 施設内に潜入した二人は、薄暗い廊下を慎重に進んでいった。壁には古びたモニターが埋め込まれており、断片的な映像が流れている。その中には、かつてオーロラ計画の研究者たちが映っていた。


「これが計画を進めた人たちか…」


 ハルカが呟くと、突然モニターの映像が変わり、警告音が鳴り響いた。


「侵入者発見。」


 冷たい声が施設内に響き渡り、警備用のドローンが動き出した。


「急げ!」


 レイが叫び、二人は走り出した。廊下を駆け抜ける中、ドローンが背後から迫ってくる音が聞こえる。


「出口はどこ?」


 ハルカが叫びながら、地図を確認する。


「右だ!早く!」


 レイの指示に従い、二人は右の通路に飛び込んだ。しかし、そこには行き止まりが待ち受けていた。


「どうするの?」


 焦るハルカに対し、レイは冷静さを保ちながら端末を操作し始めた。


「ちょっと待て。これでドアを開けられるはずだ。」


 数秒後、壁の一部が静かにスライドし、隠し通路が現れた。


「行くぞ!」


 二人は通路に飛び込み、背後でドアが閉まる音を聞いた。ドローンの音が遠ざかり、ようやく静寂が戻った。


 ---


 隠し通路の先には、小さな部屋があった。中央には古びたコンピュータが置かれており、その画面には「オーロラ計画」のロゴが表示されていた。


「ここが…何かの制御室?」


 ハルカがコンピュータに近づくと、画面が自動的に点灯し、メッセージが表示された。


「被験者番号034、認証完了。」


「被験者番号034…これ、私のこと?」


 ハルカの目に動揺が浮かぶ。その瞬間、画面が切り替わり、記録映像が再生され始めた。


 映像には、幼いハルカが映っていた。彼女は研究者たちに囲まれ、何かの実験を受けているようだった。


「これが…私の過去?」


 ハルカの目から涙がこぼれる。レイは無言で彼女の肩に手を置き、優しく励ました。


「これが真実なら、俺たちはもっと深く知る必要がある。」


「でも、怖い。」


 ハルカの声は震えていたが、その目には決意の光が宿っていた。


「それでも、進まなきゃいけない。」


 彼女は涙を拭い、コンピュータのデータを次々に調べ始めた。そこには、さらなる秘密が隠されているのかもしれない。

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