天帝の願いごと

真白清礼

序章

第1話

◇◇


 私は『あの子』が苦手だった。

 本当の自分を失くした私と違って、純粋無垢で私を疑うことを知らない、あの子を。

 偽りで塗り固められた私の人生を、易々と打ち破ってしまいそうで、怖かった。


「先生っ!」


 私は、そんなふうに呼ばれるような大層な人間ではない。

 もっと浅ましく、偽善的で、打算的な……ただの子供だった。


 ――大嫌いだ。


 あの子が私だけに見せる、日輪のような笑顔が、闇に慣れた目には眩しすぎるのだ。

 駆け引きすらできない、純朴な素直さなんて、この世界にはいらない。

 私にとって『あの子』の存在自体が、己の惨めさを突き付けてくる、鋭い刃のようだった。


 ――離れたい。


 けれど、私は危険極まりない『あの子』を、終生自分の傍から放さなかった。

 


 ――たとえ「死」という呪いで縛ることになっても、放せなかった。

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