第2話 よろしくお願いします
「大丈夫? 静那(しずな)さん……血相が悪くなるし、倒れそうになるし、心配したよ」
心配そうに顔を覗き込んでくる米山先輩に、私は自分でも信じられないくらいの勢いで頭を横に振った。
「だ、大丈夫です……! ちょっとびっくりしすぎて、めまいがしたというか。まさか米山先輩とお会いすることになるとはと思わず……」
「ああ、だよね……海外が長かったし。全然会ってなかったから。琴音と静那さんが今も仲良しと聞いて僕も驚いたくらいだよ」
「そ、そうですね。就職を機にこっち戻ってきたら、琴音が優しく迎えてくれて、しょっちゅう遊んでます」
おかしい冷や汗が出そうで、私が深く呼吸をした。
厚手のマフラーをつけていたのだが、深く顔を鎮める。顔半分を覆うくらいに。
好きな人の顔を久しぶりに見るだけで緊張するし、心臓がおかしくなっていく。
先輩と再開するのは七年ぶりだ。
大学途中から海外の大学に編入し、そのまま現地で過ごしていると聞かされていた。
「なんか本人自覚ないだろうけど、さらっといいもの身につけるようになってるんだよねー……海外ってだけなのに。
なんか強制的にセンス磨かれるのかって思っちゃうよ」と妹の琴音は呆れ半分感動半分で言っていた。
実の妹の言ってることは間違いなかった。
もともと容姿は良い方であった。そんな先輩は、穏やかな雰囲気は変わらずキレイな男性になっていた。
清潔感と品の良さ、アウターも薄手ながらよほど気密性がいいのだろう。
全然寒そうじゃない。シルエットがとにかくいいから、立ってるだけで様になる。
「ごめんね、ホントは琴音と来たかったとおもうんだけど、いるのが僕で」
「いやいや、それはいいんですけど……ただ事態が飲み込めなくて」
「その様子じゃ、琴音、伝えてなかったんだなぁ……」
やれやれと米山先輩は深く息をついた。
どういうことだろうと思うと、彼は私のことを心底すまなそうに見る。
「今日、夜中にここの寺に行く予定だったんだろ……琴音と。あの子ね、夜中に女性二人でいるなんてあぶないでしょうがー!って言い出して。
僕にボディガードを頼んだんだよ。それで現地集合ってことになったんだけど、琴音だけがいない」
「仕事遅れてるのかな……ちょっと連絡確認しますね」
そう言ったのと同時に、スマホから聞き覚えのある通知音が聞こえた。
琴音専用のメッセの受信音……スマホをまじまじと見ると、通知先のアプリに連絡が届いていた。
【我、仕事終わらず。おそらく終わる頃には終電は消えます……ごめん、お兄ちゃんは来ると思うんで、そっちはそっちでよろしく】
「はああ?」
米山先輩と参拝?! ってことなのか。
思いっきり琴音の肩を前後にゆらしたくなったが、本人がいない。
わなわなと私は手を震わせた。
「やっぱ、琴音と行きたかったよね……一番の友だちだろうし」
「そ、それはそうですが……いやでも、そうじゃなくても、ここの寺に行きたかったんですよ、縁結びで有名なんで」
「縁結び……?」
「そうですね……はい……なんか恋愛うまくいかなくてぇ」
なんて歯切れの悪い言葉なんだ。
純粋に考えればまだ最終の電車は私にはあるんだから、後日改めてでもいいといえばいい。
でも今、米山先輩の前で、さっぱりと、予定組み直しますーとか言いたくなかった。
今度米山先輩と顔を合わす機会なんてそうそうつかめるかわからないんだから。
かと言って、自分の疼く過去の気持ちを隠して、誘うのが自分の演技力では難しかった。
どうすればともじもじしていると、米山先輩が言った。
「じゃあ、琴音が言ったとおり。ボディガードとしてついていかないと駄目だね」
「えっ」
「いくら人が多い大晦日でも、女性一人で真夜中は危ないよ。参拝が終わる頃には地元までの終電ないだろうし」
「……一緒にいてくれるんですか?」
おずおずと言うと、先輩は深く頷いた。
「もちろんだよ、今日はよろしくね」
我ながら現金な程に嬉しくなった。
もう甘酒の力がなくても体が熱くて、ほかほかする。
こんな偶然……年末に運が集結したのかとすら思う。
私は目を細め、弾んだ声を上げた。
「よろしくお願いしますね、先輩」
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