大晦日、待ち合わせに来たのは初恋の先輩でした
月見里つづり
第1話 友だちが来るはずだったんですよね!?
なぜだか、私は男の腕の中にいた。
それは知らない誰かではなく、私がずっと好きだった人で……。
「静那さん……」
そう私の名前を読んで、彼はぐっと私の顔を自分の方へ抱き寄せた。
どうしてこんな状況にという戸惑いと、でも結ばれたんだという歓喜で心臓が持ちそうにない。
そのまま、私と彼は、唇を重ね、彼の体重はゆっくりとのしかかり……。
……夢から醒めたとき、あ、夢だったんだ……と落胆している自分に気がついた。
そうだよね、なんで高校時代の夢を見てたんだろうね。
憧れの先輩、仲良しの友だちのお兄さんに告白されてキスしてるなんて、妄想がすごいよね。
自分は高校卒業して七年も経ってるわけで、そんなことないじゃん……とまでまくしたてるように
考えて、深く息をついた。
それはそうとして、あの人とのキスの感触……リアルだったなと。
ボッと顔が赤くなって、前のめりになって、布団から抜け出せず、ため息が出た。
すごくやばい……あの頃の恋心が蘇りそうだ……。
今日会うのは、憧れの先輩……ではなく、その妹であり私と仲良しの琴音の方。
でも琴音と電話しているときに、偶然聞こえてきた先輩の声に、私の心は敏感に反応した。
「夕ご飯だよ」と低く落ち着いた声だった。
元から低い声だったけど、ちょっと更に低くなった気がする……。
柔らかみのある優しさと、温もりのある声だった。
煩悩が除夜の鐘と共に消されるはずの日に、私は煩悩がひどすぎた。
琴音は大晦日も仕事らしく、大きい寺のある町の駅で待ち合わせになっていた。
十二月三十一日の二十二時五十分。
私は現地に到着する。
ここは、寺社で有名な場ではあるが、ソレ以外にとくになにかあるというわけではないらしい。
その割に駅が意外と立派だった。人がいっぱい訪れてもわりとゆうゆう歩けそうな大きい通路。
正月の盛り上がりがすごいんだよーと琴音は言っていたが、まさにその通りで、人は集まっている。
縁結びが評判ということもあってか、カップルや男女混合のグループ。
家族連れ、老人の姿は案外少なかった。寝ているのだろう……。まあ、最低気温三度だし……。
一応琴音との計画は。
お参りをゆっくりして、すこしおみくじとかを引いたりして、最後に真夜中でも開けてる飲み屋で飲んで……。
まあ、女性二人、アラサー二人、だらだらに過ごしましょうというものだ。
寺社のまわりは個人店ばかりで、しかも評判の良い飲み屋がたくさんあるのだ。
お酒が好きな私には、あまりに好都合だった。
ホッケのひらきの、身の塩気とあぶらを感じながら。芋焼酎、お湯割りとか……。
仕事がガテン系の事務方。周りは酒好きが多すぎて、ここ三年勤めてたら、お酒の趣味が若くなくなった。
まあ、琴音に対してはいろいろと開き直れるので……全然問題ない。長年の友人にかわいくぶっても意味ないしと
私はほくそ笑んだ。
約束の時間は二十三時だったので、甘酒を買って飲みだす。
なんだろう、大晦日マジックだろうか……。甘い香りの湯気も、吐いた息の暖かさも
特別な気がする。なにかが起きそうな……いや、そんな起きることないか。
私は自分に対しておかしくなって、思わず小さく舌を出した。
「ん?」
背後に人の気配を感じる。
あー琴音の悪ふざけか……そうだよねぇ、キミはそういうやつだ。
私はめちゃくちゃ分かってる。
こういうのは近づいてくる相手を最大限に引き寄せて。
「もうさー、やめなよー琴音っ」
と、げらげらと笑い出しそうになりながら振り向く。するとそこには。
「すいません……琴音じゃなくて……」
黒髪の少し前髪の長めの男性が一人。
邪魔そうに髪を払った男性に見覚えがあった。
私は一瞬声が出なくなる。それでも表情を固まらせながら、口を動かした。
「米山先輩……?」
琴音の兄であり、憧れの先輩がそこにいた。
彼はあの頃と変わりのない優しい笑みで。
「はい」と応えた。
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