愚才な武人と天才少女たちの魂の伝承八章アカデミー卒業後の修行

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第1話 八章アカデミー卒業後の修行

アカデミーの卒業後、美樹は水樹の元に、エリカはハヤメのいる矢早の里に

預けることに、そして自分とアリサはロンの所で修行に行くことにした。

ロンの道場は本当に仙人が住むような、極めて険しい切り立った山の中にある。

ヒロはそこを悪神の住む山と呼んでいる。

まずその麓(ふもと)まではユニオンのヘリで何とか行くことが出来るが、そこから険しい山を自分の足で登り上がっていく必要尾がある。

普通の人間なら確実に遭難して、道に迷う。ユニオンの特別な通信機意外は電波も

無いし、ロンの住む場所にかろうじてユニオンの発電機器が有るのみで普段は電気を

使うことすら無い。

どうやって生活するの?と言う話だが仙人を地で行くような生活である。

ロンは基本雑穀と野草や木の実、山の淡水魚、たまに野鳥を取り、水は天然の水を

熱して常温にし、白湯や薬草を煎じてそれを飲んでいる。

グルメを自称するヒロにはまずはそこから地獄なのである。

ヒロは今回、ロンの軽気功を本格的に学びながら更に爆発呼吸の精度を上げて瞬時に相手を倒す秘儀を修行する。

簡単に言えば相手の攻撃は当たってもほとんど効かなくする技術と、こちらの攻撃は軽い打撃でも一撃で倒す秘儀を習得するための修行だ。

アリサには軽気功の基本的技法で空中戦や飛び技の精度を上げるための

修行をロンは施した。

道場と言っても山の自然の中での修行で、常に危険と隣り合わせの修行が多い。

岩場で歩法を訓練したり立ち木を利用したり、昔の武術家が山籠もりで神託を授かる場面を地で行く、あるいわ導師が仙人になるための修行のように見えるが

いい加減な物でなくロンが理論的に考え色んな体験をヒロ達にさせながら、

体を練ったり、身体操作を刷り込んで行く。

武術もスポーツも簡単に言えば戦うためのフィジカルと身体操作とそのための

マインドを積み重ね完成させれば良いので有る。

爆発的な力もフジカルトと、それを100%引き出す脳からモーターユニットへの

伝達機能の向上である。

火事場の馬鹿力をイザというとき引き出せ、それを操るための修行なのだ。

ヒロに取って一番の苦痛は修行の厳しさよりも山での生活と食事だ。

そして夜や大雨の日に行われる、ロンの座学での講習、それには五経四書も含まれる。

五経四書とは易経』『詩経』『書経』『礼記』『春秋』の五経、

『論語』『大学』『中庸』『孟子』の四書で中国の官僚の試験で出た書物だが

それを、くどくどとロンが解説する。

ヒロはこれを地獄の子守歌と呼んでいる。

つまり死ぬほど眠くなる。


ある日ヒロはお茶を飲みながらアリサに苦情と愚痴を言うと、 

アリサは【先生が愚痴を言うのを初めて聞いたと】何故か嬉しそうだ。

そう言えば弟子に自分の弱みを見せないよう、いつも繕っていたのだ。

ヒロが苦笑いしながら【そうだったか?お前は辛くないのか?】と聞く。

アリサは【先生と一緒だから、それにロン先生に直接修行を受けるなんて凄いことでしょ?どんどん技を覚えられることが、楽しい】と言う。

アリサの才能がロンの指導で開花して来ているのだ。

ヒロはアリサの父親のことを思い出す、いつも自分より先に技を覚え才能の差を感じていたことを。

ヒロは【やはりお前はハヤトの娘だ、技の吸収と理解が早い】と頭をなでた。

アリサは嬉しそうに笑って【、もっと頑張って強くなりたい】と言った。

アリサはそれだけで無く、ロンから鍼灸や薬草など、東洋医学の知識や技術も

学んだ、その実験台はヒロである。

ヒロが【なんで俺が実験台なんだ】とロンに言うと【貴方は自分の身体のケアが全然なって居ません、アリサの施術の恩恵を、これから受けて行くのですから、実験台

くらいは我慢してください】と言う。

アリサが【先生のケアはこれから私がしますから、安心して】と言う。

ヒロは恥ずかしさで何とも微妙な面持ちに成ってしまうのだった。

半年の修行が終わり山を下りる頃ヒロの体重は78キロの筋肉質だった身体が

70キロ位になった。

不思議とパワーの衰えも感じず、瞬間的な技の威力は増したように感じる。

アリサも以前よりシャープな身体に成り大人びた顔になったように見えた。

日本に帰りユニオンに付くとヒロはアリサと美樹の居る、水樹の元に

顔を出した。

水樹と美樹の事が気になっていたのだ。

水樹は以前よりさらに痩せて居るように見えたが、何故か気力は充実

しているように感じた。

そして美樹も半年の間で少し大人びて感じる。

水樹がヒロに【アンタ少し男前になったんじゃないか?】と冷やかす。

ヒロが【水樹姉、今頃気付いたか?元気そうで安心したよ】と言う。

【美樹に色々技を仕込んでいたから、少し酒を控えたんだよ】と言う。

美樹が【先生ロン先生の修行ってどうだったの?】と聞く。

ヒロが笑って【地獄の牢獄で修行した感じだ】と答える。

水樹が【今日は泊まって生き明日一緒に修行しよう】と言う。

ヒロが【そうだな、水樹姉との、本気の技を美樹に見せるのは良いことだ

水樹姉の相手が出来るのは今俺位だからな】と言う。


翌日、皆で水樹と修行し、ヒロと水樹の組手を見せる。

本気の組手に近いがまるで模範組手で二人が演武で技を美樹に見せているような

美しい組手で水樹は化勁や交差法を存分に発揮してそれをヒロが引き出したり受けたりする、美樹はそれを目に焼き付けるように見つめている。

美樹やアリサそこにはシャチ(美樹の兄弟子)も静寂のなか見入っていた。

組手が終わってヒロが【流石、水樹姉だな、全盛期と遜色ない技の切れ味だ、

まだまだ戦えるな】と言う。

水樹が【これからは少し楽をさせて貰うよ、その分お前たちに託す】と言う。

美樹が【私がもっと強くなって頑張るからね、先生】と言うと水樹が美樹の頭をなで【頼んだよ、美樹】と言う。

シャチの目頭が赤くなっているようにヒロに見える。

ヒロがシャチに【美樹の事は俺に任せておけ、お前も俺の弟のような存在だ、

里の事も何でも相談しろ、ヒトミ姉ちゃんもお前のことを気にしていたからユニオンでフォローすると言っていた、嫁さんも探さないと、とか言って居たぞ、余計な世話かも知れんが】と言うと

美樹が【シャチ兄様は女にウブ過ぎるし、小うるさいから、是非良い人を探して】とヒロに言って来る。

水樹が大笑いして【ヒロによろしく頼むよ】と茶化す。

ヒロは一旦ユニオンに帰り水樹の様子をヒトミに報告した。

実はヒトミは1か月に一度診察と薬の処方のため水樹の所に行っていた。

そしてシャチとも頻繁に連絡を取っていた。

水樹がもう長くないことも知っているのだ。

しかし水樹はそんな中でヒロとあのような組手が出来る事は人間の身体の力の不思議な力であろう。

勿論、ヒロ自身も決して手を抜いたりしては居ない、改めて水樹の気の力に

驚かされたのである。

十月になりまだ残暑が残っているが山には少し秋の風始めようとした頃、水樹の体調が急変した、海の風も少し変化して気温も朝夕の気温が変わって来た頃だ。

ヒトミとヒロ、アリサは水樹の所に急行した。

水樹はまだ息はあるが、既に半分気を失っているように眠っている。

ヒトミの処方で既に看護師が点滴を投与して酸素吸入を行っている。

ヒトミは少し前に病院への入院を勧めたが、がんとして拒否して自分の里での療養を望んだので里に看護師を手配して、なにか有れば指示を仰ぐように言っていたのだ。

美樹が心配そうに水樹を見つめている、ヒロの顔を見て美樹は涙目を浮かべる。

ヒロが水樹に水樹姉と声をかけると【何だい慌てた顔して】と細い声で水樹が

返事をする。


ヒロは何か言おうとするが何を言って良いか言葉が浮かばない。

ヒトミが【何処か痛む所は有る?】と聞くと水樹は笑顔だけ見せた

ように見えた。

水樹はヒロに【ヒロ、後の事は頼んだよ】と一言いうと薬が効いたように

眠りに就き少しずつ脈が落ちていきそのまま意ってしまった。

計器の心拍がゼロに成りブザーが鳴ってヒトミが脈を取り首を振り

臨終したことを告げる。

肝臓ガンによる臓器不全だ、モルヒネを打っても、痛くない訳が無い、しかもそんな中で、ヒロと見事な組手を見せ、美樹に技を伝授するなど常人では有り得ない。

水樹も常人を超えた武人で有ったことは紛れもない事実だ。

美樹は泣き崩れ先生先生と水樹に縋りつく。

ヒロもアリサも涙を浮かべ、あまりの出来事に声が出ないが、美樹が落ち着いた頃、美樹に【お前は水樹姉の命を懸けた技を最後に見た、一人だと言うのは

理解しているな】と尋ねる。

頷く美樹に【お前はその技を継承して、更に進化させて引き継ぐ義務が有る

技だけでは無くいずれその魂さえ理解して進化させる義務がある

水樹姉は命を懸けてそれをお前に託した、お前には水樹姉以上に幸せに成る責任が

ある、そのことを水樹姉は俺にも託した、それだけは何が有っても忘れるな】

と告げる。

そしてその二日後、里で、水樹の告別式が行われた。

多くのユニオンの仲間や武縁の有った者が弔問に訪れた。

矢早の里のハヤメやシュウ、ユミなども訪れ、葬儀の後料理の仕出しは何故か

精進料理では無く魚料理と酒が沢山振舞われ、水樹の昔話に花が咲いた。

そこで、美樹が水樹の正式な跡継ぎで有ること、彼女が成長するまでシャチが

後継人として里を運営することをヒロがユニオンの代理人として告げた。

お別れの宴では皆、水樹の悪癖や事件などが懐かしい思い出として語られ、

葬式と言うより悪口や苦情に近い話も多かったが、それでも皆水樹に愛着が有り、

憎めない存在だったことが伺われた。

ハヤメなどは水樹を酔っぱらい娘と呼んで、年上の自分より早く逝く

不幸をなじったりしながら皆で酒を交わしていた。

シャチは葬式の準備や世話で大変だったが上手くこなしていた。

ハヤメと一緒にハヤメに預けておいたエリカも弔問に訪れ、美樹の隣で

常に慰め一緒にいてくれた。

葬儀が終わり一段落つくと、エリカも美樹もユニオンのヒロの所に帰って一緒に住み

任務に当たる事となる。

ヒロとアリサは一度ユニオンの家に帰り、新ためて美樹とエリカを迎えに行った。


美樹、アリサを連れて矢早の里にエリカを預かって修行をさせてくれたお礼と挨拶に

行った。

三人が里に着くとエリカが迎えに出て来た。

ヒロがエリカに【少しポッチャリしたんじゃ無いか?ちゃんと修行していたのか】

と言う、完全にセクハラ発言である。

アリサが【先生、エリカは女らしく成って来る年頃に成ったんです】と言う。

ホルモンの関係で、体つきが変わる年齢は、個体差がある。

ヒロはそのことにようやく気付き【エリカにそう言えば女らしく

綺麗に成った】と訂正するが、実はこれも受け取り方でセクハラ発言

に成ってしまう。

美樹に【先生、デリカシーが無さ過ぎ】と窘められてしまう。

ヒロは【うっ、悪かった、すいません】と謝るが心の中で面倒な世の中に成った

と思った。

ハヤメに【何をしとる、早う上って来い】と声をかけられ屋敷に上がりハヤメに

エリカを預かってもらった挨拶をして土産を渡す。

ハヤメの好きな白鷹の純米酒と秋鹿の純米酒と水樹の里で作られた、

アカカマスの干物を持って来た。

カマスの干物を見てハヤメが【懐かしいの、これが旨いんじゃ、水樹とこれを魚に

飲んだものじゃ】と言う。

座敷に皆を座らせ、美樹に【水樹が逝ったのは残念じゃが、皆が水樹のために

集まって良い葬式であった、昔ならあり得ん事じゃ、これも源三が争いを治め

ユニオンを作ったおかげじゃ】と言う。

【あの葬式に来たモノの中には昔、里どうしで血で血を洗う争いの

有った者もあった。愚かな事じゃ】と言う。

ハヤメが【今日は皆ここに泊まり飯を食べていけ】と進め皆で酒を交わした。                                ヒロが酒の席で【エリカはちゃんと修行していたか、おばば様】と聞く。

【エリカは真面目で良い娘じゃ、お主とは大違いじゃ】と言う。

ヒロが【俺だって真面目に修行していただろ】と言うと。

【お主はアーダコーダ屁理屈ばかりこねておった】そして美樹を見て、

しかしこの娘は【水樹の若い頃によう似ておるの】と言う。

ヒロは笑ながら【悪い所までそっくりで困って居るんだ、おばば様に

行儀見習いに預けるかな】と答える。

ユミが【悪い所は兄様の影響じゃないの?】と言うと

ヒロは【そうなのか美樹】と聞く。

美樹は【私悪い所なんて無いもん】と答えると、ハヤメが

【美樹もエリカもアリサも皆、良い娘じゃ】と言う。


ヒロが【おばば様は俺意外に甘すぎる、なんで俺にだけ厳しいんだ?】

と文句を言うと【お主が一番出来が悪いからじゃ】とハヤメが笑った。

それを聞いたアリサが弓美に【ヒロ先生の若い頃ってどんな生徒だったの?

弓美先生】と聞く。

弓美は【兄様はいつもババ様に反抗して叱られていたのよ、いつも私に

ババ様の愚痴を言っていたの】と答える。

ハヤメが【源三への恩が無ければ、こんな出来の悪いのは世話はしておらん、

こんな出来損ないでも源三に頼まれたから世話をしとるんじゃ】と言う。

アリサが【先生の爺様は凄い人だったんですね】と聞くと。

ハヤメが【源三が居なければ、里同士が未だに世界中のどこかで争い続けていた

恐らく多くの里がその果てにバラバラになり消滅しているじゃろう】と言う。

アリサがヒロに【凄い御爺様だったんですね】と言うと

ヒロが【ある意味凄いが俺には鬼だ、あのジジイ小さい俺をあっちこっち

連れまわし、鬼のように地獄の修行をさせて】と言うと。

ハヤメが【このバチ当たりが、源三が厳しく修行してなければお主は

とうの昔に死んでおるのが解らんとは情けない】と言う。

ヒロが【そんな事は解っているよ、でも俺はもっと青春が欲しかったの】と言うと

【それが定めじゃと解らんとはあの世で源三が泣いておるわ】とハヤメがヒロを責めるのだった。

弓美が【ほらね、いつもこんな感じだからアリサは気にしなくて良い

からね、兄様を見習っちゃダメよ】と言う。

疎ましそうな顔でヒロは弓美を眺めるのであった。

そうは言ってもヒロは、ユミが赤ん坊の頃から知っていて、小さい頃はヒロに

なついて、ヒロも抱っこをしたり、おしめまで換えたりした。

赤ちゃんの頃は、あんな可愛い子供だったのにと思いながら、眺めるので有る。









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