UNDEAD BAD MAX
初音MkIII
第1話
オッスオラ荷鳥半蔵!
現代日本でいくつものバイトをかけ持ちした結果、働きすぎてぶっ倒れたバカだ!
いやね、急に目の前が真っ暗になったと思ったら、気付けば見覚えのない砂漠のド真ん中で倒れてたんだよね。
知らんうちに鳥取砂丘に来てたなんて事あるわけもなく、そもそも手足が生えたポリタンクが疾走する砂漠なんて実在してたまるかっての。
はい。
どうやらわたくし、過労でくたばって異世界転生を果たしたようでござる。
それはいい、それはいいんだけどさ。
「全然街が見えないんですけどぉぉぉ!?」
はい。
これは非常にマズイなと、ただいまめちゃくちゃ危機感を覚えております。
だってさ、所持品といえば何故か懐に入ってた見覚えの無いタブレット端末と、使った事どころか実物を見た事すらもない拳銃が一つだけよ? ついでに今着てるスウェットの上下。
砂漠なのに! 水がない!!
やべーよ、やべーよ……このままじゃ俺、せっかく異世界転生を果たしてワクワクさんなのに第一異世界人も発見できずに干からびて死にそう。
動いてない(動いてないとは言ってない)のに暑いよ~! だよマジで。
せ、せめてオアシス的な何かを見つけなければ……。
ところがぎっちょん、さすが異世界というべきなのか、ちょっとベクトルがおかしいけどモンスターとか戦車みたいなのとか、物騒なもんぶら下げたロボとかがちょこちょこ彷徨いてやがるのね。
そのせいでどうにかこうにか隠れながら進まないといけなくて、探索がちっとも捗らない。
あっ、やばい……目の前が霞んで──
「モア、息はしてる?」
「ガウ!」
「そう。モアの分の水、借りる」
「ガウッ!?」
「なんで? じゃない。さすがにこのまま見殺しは──」
──声?
あれ、俺……意識を失って……。
えっ生きてる!?
「み、みず……」
「ガウンッ!?」
あ、犬。
めっちゃビックリして飛び上がった。
それと……?
「はい、水。見かけない顔だね」
「あり……が……と……水うめぇ!!」
「ガウ」
「ん。復活がはやい」
俺、復活!!
いやーマジで死ぬかと思ったわー。
乾いた喉に水分が染み渡るゥ~!
さてさて、そんな事より命の恩人にきちんと感謝をしなけれ……ば……。
でっっっっっ!! エッッッッッ!!
いやいや、恩がね?
すげーなこの子、何カップあるんだ……デカすぎてコートの前閉めれてないじゃん。
つーかこのクソ暑い砂漠で革のロングコートって……暑くない、わけないよな。
下にはいてる黒いミニスカとブーツがとてもえっちでいいと思います。
「ありがとう、おかげで助かった」
「ん。しなびたキノコみたいだったから正直もう助からないと思った」
「ガウ」
「私はミラ。そして、この子は犬のアンゴルモア三世。つよくてかしこい」
「名前厳ついなワンコ……武装してるし」
「当然。街の外はどこもモンスターでいっぱいだから、犬も武器を持たないと危ない」
「えっ、まさか使えるのか? 犬なのに」
「ワフッ!」
「使える。モアもそう言ってる」
「えぇ……」
ミラちゃんに、アンゴルモア三世ね。
……犬の名前厳つすぎんだろ、恐怖の大王かよ。
いや、見たところハスキー犬みたいだから顔は厳ついんだけどさ。
おっと。
「俺は荷鳥半蔵! 気付いたらこの砂漠に居た行き倒れだ! 変なタブレット端末と、使えもしない拳銃しか持っていない無一文です!」
あ、ミラちゃんとアンゴルモア三世の顔がちょっと訝しげになった。
ミラちゃんはともかく、随分と表情豊かな犬だなぁお前……。
「タブレット? もしかして、ハンタブ?」
「なにそれ」
「……記憶喪失か何か? ハンタブはハンターなら喉から手が出る程欲しがる便利アイテム。もちろん私も欲しい」
「……これが……?」
ハンターという言葉は少し気になるが、それより何よりまさかこのタブレット端末がそんなにレアな代物だとは。
まさかこれが転生特典的なアレなのか?
思わず、ハンタブとやらを懐から出して眺めてしまった。
「よし、ならこうしないか?」
「ん?」
「ガウ?」
「君はコイツが欲しい。対して、何も知らない俺は情報が欲しい。というかあわよくば君たちについていきたい」
「いいけど。そろそろ仲間も探さなきゃと思ってたから」
「故に、このハンタブとやらを君にあげる代わりに俺を仲間に……えっ、いいの?」
「いいよ。あなたが悪いヤツならこの子がとっくに喉笛を噛みちぎってる。そうしないって事はきっとあなたはいい人だと思う」
「ワフン♪」
「さらっと怖い事言われたぞ今」
思わずゾッとしたけど、どうやら一世一代のプレゼンは無事成功したようだ。
かわいい女の子についていきたいという下心が無いと言えば嘘になるが、そんな事よりもここで「じゃあそういう事で」と別れちゃったら、正直また遭難する未来しか見えないからな。
「じゃ、乗って。ここ、ソラ砂漠は比較的弱いモンスターばかりだけど、それでも生身で居るのは自殺行為だから」
「ガウ」
「もう既にアンゴルモア三世が乗り込んでやがるんですがそれは。この車は君の?」
「ちがう。私はまだ
「へぇ、車のレンタルなんてやってるのか。それに、この辺りはソラ砂漠って名前なんだな」
「ハンタブがあるなら自動マッピング機能が付いてるはず。貸して」
「ほうほう……はいよ」
「たしか、ここをこうして……」
なんか車の文字が違う気がしたけど、改めて見てみればミラちゃんの背後にはゴツくて広々としたスペースがある
後部座席にはいつの間にか、アンゴルモア三世が陣取っておられた。
しかし、自動マッピング機能なんてあるのかこのタブレット。
言うだけあって、使いこなせればかなり便利そうだ。
助手席に乗り込み、運転席に座るミラちゃんの華麗なタブレット操作を眺めていると、間もなくして画面のほとんどが黒く染まった地図へと切り替わった。
なるへそ。
「え? どういう事……まさか砂漠の真ん中で急に生えてきたはずも無いし……」
ごめんミラちゃん、俺もそのタブレットも、たぶん砂漠の真ん中で急に生えてきたんです。
せやからまだ地図が今いる地点と、俺がのろのろ彷徨いてた辺りしか映ってないってわけだね。
「……まあ、そういう事もあるのかな。一応、街に戻ったら修理工房のメカニックさんに見てもらった方がいいよ」
「分かった、そうする。つーか俺じゃ使いこなせないだろうし、君にあげるよ。そのタブレット」
「いいの?」
「ガウ?」
「うわ急に顔を出してくるな狭いだろワンコ!! いいよいいよ、君は俺の命の恩人だからね」
「……分かった、ありがとう。大事にするね」
「是非ともそうしてくれ」
とても綺麗な微笑みと共に、でっかい胸にハンタブを抱き込むミラちゃん。
羨ましいぞハンタブそこ代われ。
「じゃあ、そろそろ出発。一旦街に戻ってハンゾーくんを少し休ませてから、改めてこのソラ砂漠を探索しよう」
「おけ。ところで、ミラちゃんはこの何にもねえ砂漠に何の用があるんだい?」
「あ。ごめん、まだ言ってなかった」
「ガフン……」
「これ見よがしにため息吐かないで、モア。エサ抜きにするよ」
「ガウ!?」
そんな殺生な!? と叫ぶアンゴルモア三世の言葉無き声が聞こえた気がする。
ほんと、この犬ってば中に人でも入ってるんじゃないか?
それにしても、ハンゾーくんかぁ。
いいねえ、素敵な呼び方だねえ。
脳が震える……!
「この砂漠のどこかに、持ち主が居ない
「……どうして?」
「ガウ」
「……私は、実の両親と育ての親を奴らに殺された。このどうしようもない世界を荒らし回る悪党集団、“リビングデッド”に。だから、探しているの。復讐のために」
「…………」
優しさが溢れる目の前の美しい少女から漏れだした、ドロリとした憎悪の感情。
それは、平和な現代日本でのんべんだらりと暮らしていた俺には想像もつかないほどのモノで──。
──その後、しばらく俺は彼女にかける言葉が見つからなかった。
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