第8話 次はお前

 家族が駆け込むと真由は耳を押さえ、床に蹲って悲鳴を上げ続けていた。何があったのか訊ねても答えることも出来ず、ただ泣きながら震えていた。

 抱えられて立ち上がる時、恐る恐る天井を見たが何も変化は無い。普段通りの明るい天井があるだけだ。

 興奮状態が続いたので家族は話し合い、翌日専門の病院で診て貰うことにして、その晩は母親のベッドで寝かせることにした。


 その夜中――。


 温もりの傍にも拘わらず、なかなか寝付かない真由はしきりに部屋の中を見回していた。

「明かりは消さないで!」という真由のため母親はその通りにしたが、その部屋の天井も壁も特に変化は無かった。

 安心しかけた真由の脇で母親が寝返りを打った。その顔を見て真由は気を失いかけた。

 それは、母の顔ではなく、目を見開いて笑う俊彦のものだった。


「…お前が次…ざまあみろ…」


 気を失った。朝、母親は自分の隣で眠る真由が全身を硬直させているのを見て救急車を呼んだが、救急車が来るまでの間も家族に押さえつけられながら真由は叫んでいた。

 リビングの壁に、天井に、テレビの画面にも俊彦の影が見える。取り押さえている父も母も兄も兄嫁も俊彦の顔だった。


「う…あ…あ…あ…!」


 見ると、リビングの隣のサンルームでカーテン越しの薄日に当たっている生後三ヶ月の兄の子も顔を真由に向けているが、俊彦の顔だった。その全員が言っている。


「次は…お前…」

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