第5話 消極的加担
真由は俊彦を好んで虐めていたグループのリーダー的な存在で、親が提携大学の理事をしていることを鼻に掛けて女王のように振る舞うクラス一の問題人物だった。
「だよねえ」
綾音は溜息を吐いた。初夏の陽は西に傾き、駅への道は自動車も混雑し始めていた。
「そうだよ。もし久保田が自殺したっていうなら一番にヤバイのは真由でしょ?私らは別に…」
「白南風には真由もあんまり何も言わないじゃ無い?だからいいけど、私なんか真由が怖くて久保田を委員にする時も賛成したもん。立派なイジメだよね」
イジメに立派とそうで無いものがあるかは分からないが、白南風は一蹴した。
「バカ言わないの!」
綾音の言うとおり、クラス一の問題児・真由も白南風には関わろうとしなかった。それは多分に白南風の持つ独特な雰囲気のせいでもあったが、それとは別に白南風の『家』の事があった。
白南風の苗字『恵谷観』は平安時代から続く寺『八恩院』を護る一族のもので、近郷の名士は言うに及ばず、歴代の警察署長や果ては市長、知事までもが挨拶に訪れる家柄だった。
如何に提携大学理事の娘と言っても、おいそれと手出しできる相手ではない。
「イジメをやってたのは真由のグループで、綾音も他の子も積極的に関わってなかったじゃない!」
そうは言われても綾音の顔は晴れない。それを見て白南風は浮かない顔で呟いた。
「目の前で何かやってる時なら私も真由に言えたけど、隠れてやるイジメはどうにも、ね。それにどこかで『そこまでは知らない』って自分も居たし、そう考えるとクラスメイトとしては私だって立派に消極的加担者だったかも知れないよ。でも、綾音にも私にもどうにか出来たわけでもないし。明日辺りもまだ騒がしいかも知れないけどさ、私たちは普段通り、普通に過ごすしか無いじゃない」
自分に言い聞かせるようにそう言い、白南風は綾音と駅前で別れた。
白南風の言った一つは確かに当たっていた。翌日登校してみると、校内――特にS組は騒然としていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます