第8話 贖罪の鉄鎖─ヴァール─
放たれる鎖が宙を飛び交い、疾走り、そして目標を貫き倒す。
早々に戦線から後退したメイリィの代わり、誘導される形で地上に飛び出てきたモンスターの群れだ。
人型もいれば狼や熊、果てはスライムのような不定形のモンスターが数十は屯する百鬼夜行の様相。しかしてそれを、ソフィアの裏人格ヴァールは右腕一本で軽く薙ぎ払っていた。
殲滅である。
「《鎖法》鉄鎖収束──鉄鎖一閃!!」
「ぐおごげぎぴぴゃっ!?」
「ぅおおおおろぼぼぼばぁっ!!」
「…………これで、概ね片付いたか? 概ね30体近く、これだけの数が町に向けられていては大惨事だったな。危ないところだった」
ダンジョンから這い出てきたモノ達を軒並み、瞬殺に近い形で倒しきって後、ヴァールが右腕をひと振るいして鎖を戻した。
工場等で使用されるような、繋がっている輪の一つ一つが太く大きさのそれが彼女の周囲にて唸るようにうねり、さながら鞭のように地面を叩いては跳ねる。
これほど鮮やかな瞬殺劇は、カーンであってもレベッカであっても不可能だろう。
広範囲高威力のスキル……《光魔導》や《土魔導》などといった魔導シリーズと呼ばれるスキル群の一つかとメイリィには思えたが、明らかに様子が異なる。
いずれにせよこれは窮地だ。
降って湧いた女にすべてをご破産にされかねず、たまらず悪の女は叫び、恰幅の良い体格にふさわしい巨大な棍棒を構えた。
全滅したモンスターの代わり、前に出ていよいよ対峙する。
「なんなのよ、ソレはァッ!! あんた、ソフィア・チェーホワァっ!!」
「何か、と問われてもな。スキルだとしか答えようがない。《鎖法》……本来は人に使うようなものでもないのだが、貴様のような輩相手に有効で何よりだ」
「《鎖法》……!? ソフィア・チェーホワが能力者だってのは分かりきってたけど、そんな聞いたこともないスキルを隠し持っていたなんて……!!」
「当然だ、切札だからな。我が罪業の象徴、そして贖罪のための鎖。受けて味わえ、そして知るところのすべてを吐いてもらうぞ。貴様らが何を思ってこのようなことをしているのかをな」
「わけのわかんないこと言ってっ! ふざけ……てんじゃ、なぁいっ!!」
意味のわからないことを言いながらも鎖の巻かれた右腕を差し向けてくるヴァールに、メイリィは渾身の力で棍棒を振り上げた。
能力者としてのハオ・メイリィ。その真髄はひとえに、凶悪な破壊力と耐久性にある。
名前 ハオ・メイリィ レベル107
称号 闘士
スキル
名称 剛力
名称 頑健
称号 闘士
効果 戦闘時、腕力と耐久力に補正
スキル
名称 剛力
効果 腕力に補正
名称 頑健
効果 耐久力に補正
以上が彼女のステータスであるのだが、レベルが100を超えている。
一般に、レベルが1上がれば5%身体能力が向上すると言われており……つまりはレベル20ごとに元々の身体能力の倍を刻む形で能力者は強化されていくのだ。
翻ってレベル100というのは単純な話、常人の5倍もの身体能力や身体機能を有しているということになる。
スキル《剛力》や《頑健》による補正も上乗せされ、メイリィは驚異的な破壊力と耐久力を有していた。
「そのっ! 私のっ!! 攻撃が、小娘ひとりミンチにできないはずが、なぁぁぁぁぁいっ!!」
「物事はいつでも、想像の範疇など容易く超えていくものだということを思い知れ。《鎖法》……鉄鎖防壁」
そんなメイリィの剛腕が唸り、棍棒がヴァール目掛けて振り下ろされた。多少の間合いも、常人を遥かに超えた身体能力ですぐさま詰めての轟撃だ。
憎悪の篭った一撃。ソフィア・チェーホワという組織が最も警戒している邪魔者をここで殺せば、きっとさらなる栄光が約束されているはず!
……それ以上に可憐な見た目の少女が、自分に対して偉そうに振る舞う姿がどうにも気に食わないというのが先にあるが。
生物を、強制的にひき肉に変えてしまう圧のある棍棒。喰らえばひとたまりもないはずのそれを、しかしてヴァールは冷然と受け答えてゆっくりと防御行動に移った。
スキルを使ったのだ。
《鎖法》。彼女に与えられたそのスキルの用途は、飛ばして遠くの敵を貫くだけではない。己の腕に幾重にも鎖を巻きつけ盾とし、敵の攻撃を受け止めることさえ可能なのだ。
ちょうど今のように。当たり前のように鎖による手甲を創り出したヴァールは、なんの気もなくメイリィのフルパワーを受け止めきった。
その顔に変化はない。汗どころか棒立ちのまま、身動ぎすらしていない!
「んなっ、あっ……!?」
「殺しはしない、だが痛みは受けろ……! 下らないことにスキルを使うお前達がどのような組織か聞かせてもらうぞ! 鉄鎖一閃ッ!!」
「んぎいっぃあああっ!?」
愕然と、受け止められた棍棒に驚きで全身が硬直するメイリィ。隙だらけのその様子に、すかさずヴァールがカウンターを仕掛ける。
鉄鎖一閃。受け止めた鎖の手甲をすぐさま解除し、鞭を振るい薙ぎ払うかのような動きで右腕を払う。
当然直撃だ。鳩尾に突き刺さった鎖が、巨躯を容易く引き離して吹き飛ばす。
バウンドする風船のような姿を、しかし一切の油断なく見据えながら……ヴァールはゆっくりと、警戒しつつ近づいていった。
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