大ダンジョン時代クロニクル

てんたくろー/天鐸龍

第1話 1942年、スイス・ジュネーヴにて

 世界中に突然、モンスターが犇めくダンジョンが発生するようになってからもうじき10年にもなろうかという頃合い、1942年。

 世はまさに"大ダンジョン時代"と呼ばれる時代に突入していたのだが、同時にこの頃、世界大戦が勃発しつつあった。

 

 ことの発端は"能力者"と呼ばれる、特殊な能力に覚醒した人間達の発生だ。

 スキル、称号、レベル。ダンジョンに進入できる資格でもあるそれらステータスに覚醒した者達のスーパーパワーを巡り、国家同士での戦争が起きたのである。



 名前 ヴァール レベル404

 称号 守護者

 スキル

 名称 system:アセンション

 名称 アルファオメガ・アーマゲドン

 名称 鎖法

 名称 空間転移

 名称 気配感知

 

 称号 守護者

 効果 パーティメンバーの耐久力に大きく補正


 スキル

 名称 system:アセンション

 効果 ダンジョンコアを■■■■■■へと■■する 


 名称 アルファオメガ・アーマゲドン

 効果 救世技法/現在封印中


 名称 鎖法

 効果 スキルによる鎖を発現。それを使用する技術の習熟度に補正


 名称 空間転移

 効果 異なる二地点を繋ぐ門を設置する


 名称 気配感知

 効果 周囲のモンスターの気配を察知する


 

 人間どころか野生の獣すら凌駕し、ダンジョンの中に住まうモンスターを倒すことができるのは上記のようなステータスを持つ能力者のみ。

 その認識は最初に能力者やダンジョンが発生した1935年以降、瞬く間に世間一般の常識となったのであるが……そうした超人的な力を、モンスター退治のためにしか利用しないのはあまりにもったいないと考える者が出てくるのは、これは致し方のない人間の業とも言えるだろう。

 

 すなわち、能力者の軍事利用である。人間を超えた人間、であればその力を束ねれば世界をも手中にできる、と。そう考える国々が出てきた結果、容易く世界は戦乱に突入した。

 能力者を兵器として運用し、領土の奪い合いに参加させる争いがこの頃、世界規模で起きたのであった。


「……起きてしまった、止められなかった。分かりきっていた争いをどうにもできなかった時点で、私とヴァールの責任は重いわね」


 つぶやきながらも部屋を出て歩く一人の女。年の頃は若く18歳程度の見た目をした、ウェーブがかった金髪を揺らしたゴシックロリィタ調のドレスに身を包む、美しい少女だ。

 ソフィア・チェーホワ。見た目とは裏腹に年齢不詳で、8年前に初めて世界に姿を示した時から一切容姿の変わらない彼女は、常ならぬ憂いを顔に刻みつけて深く、重く嘆きの吐息を漏らしている。


 スイス、ジュネーヴは国連本部施設内。国連事務総長グラール・スミスとの談話を終えて後のことだった。

 スキルと称号とレベル、総じて"ステータス"と呼ばれる超能力を獲得している彼女は、同様の能力者達を集めて"能力者同盟"なる組織を結成。国連に接近し、半ば傘下組織のような形で国際的な能力者コミュニティ形成のために日夜働いている。


 そんな中、予てより不穏だった世界情勢がついに動いたことを受け、彼女はグラールの元を訪れて話し合った。

 先日に起きた、西欧のとある二国間による軍事衝突。そこで投入された、軍人としての能力者の軍事利用が、初めて為された戦いについてである。


 それが契機となり、世界各国がついに公に動き出したのだ。能力者を軍事用の兵器として運用し、自分達の領土的野心を満たすための道具とするべく……世界大戦を引き起こそうとしていた。

 こうなるまでに有効打を打てなかったことを、ソフィアは心底から悔やんでいた。能力者達を束ね、国際的な取り扱いを秩序として定める組織を形成するための活動が、間に合わなかったのだ。

 痛恨だと、彼女は歩きながらも言わずにはいられなかった。

 

「ことこうなれば、どうにか戦乱の早期終息に向けて動かないと。幸いにしてスミス事務総長以下、国連は全面的に私達の味方をしてくれている。戦争に使われている能力者達の保護と停戦の呼びかけ、各国での厭戦への誘導……問題は山積みね」

「ソフィア様! お疲れさまです、どうでしたか!?」

 

 国連施設を出つつも今後の対応を考える、彼女に話しかける男が一人。送迎用の車の前に立ち、直立不動の体勢で待っている。

 東洋系の顔立ちで、事実彼は中国人だ。シェン・カーンという男で、能力者同盟に所属するソフィアの同志だった。

 

 ざっくばらんに切られた黒髪、ワイルドさが勝つ野性味溢れる顔つき。この時32歳にもなる彼は星界拳という我流武術を創設して功夫を磨き続ける拳法家であり、鍛え抜かれた肉体を備えている。

 武道着でその体を包むいかにもな武人たる彼は、けれどソフィアに対しては敬意を隠すことなく言葉を投げかけていた。

 彼女もまた、軽くうなずき答える。

 

「駄目ですね。恐れていた事態は避けられません……戦争は起きます、間違いなく。それも信じがたいほどに広範囲、多数の国家が参戦する形で」

「それではやはり、世界規模の!? ……なんということだ、モンスターでなく人間相手に、命を守るためでなく領土を奪うために能力者が使われるだなんて」

「これは決してあってはならないことです。我々能力者同盟もすぐに手を打たねばなりません。すぐに拠点に戻りましょう、同志達と今後について話し合わなければ」

 

 素っ気なくも知らされた情報に、憤りとともに落胆を禁じ得ないカーン。けれどソフィアは淡々と、諦めることなく今後の動き方を語る。

 この後すぐに、ソフィアは能力者同盟を率いて世界大戦の終息に向けての活動を開始することとなり……カーンはそのための戦いにおいて獅子奮迅の活躍を見せ、見事シェン一族をその強さとカリスマで牽引していくこととなるのだった。

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