1日独裁者の悪用
ちびまるフォイ
独裁者のハイテンポ栄枯盛衰
「おめでとうございます。
あなたが12月29日の独裁者です!」
「ふへへ。ありがとうございます」
「それで、独裁者になったからには何がしたいですか」
「実は前から考えていた事があるんです」
「聞かせてください、独裁者さま」
「女は全員下着とする!!!」
こうして1日独裁者の手により、女性はすべて下着姿となった。
この冬の時期に。
1日独裁者はご満悦だったが、翌日になると独裁者は終了。
テレビで中継されていたこともあいまって、
1日独裁者終了後は近所からも敵視されSNSでも総スカン。
もはやこの国で生きていくことはできない有り様となった。
『では、明日の独裁者を決めます!』
『いったい誰なんでしょうねぇ』
『ルーレット、スタート!!』
つけっぱなしのテレビからは賑やかな声。
独裁者ルーレットが止まる。
『決まりました!
マイナンバー、1◯1◯◯◯3 の方が明日の独裁者です!!』
聞き覚えのある番号だとも思わなかった。
翌日テレビが直撃したことで当選を知ったくらいだった。
「おめでとうございます山田さん! あなたが今日の1日独裁者です!!」
「え、ええ!?」
「なんでも命令できますよ!」
はじめて自分が独裁者となった。
これが人生の最初で最後の経験になるだろう。
「じゃ、じゃあ命令します!!」
「なんでもどうぞ!」
「今後、ずっと俺が独裁者とします!!」
「あそれはムリです」
「いや俺が独裁者なのに!?」
「ルールです」
「ルール!?」
願いを増やすだとか、独裁者を延長するだとか。
そういうルールの裏をつこうとするのはだめだった。
1日独裁者は1日だけだった。
「1日だけかぁ……どうしよう」
まるで宝くじでも当選したような贅沢もできるだろう。
それもせいぜい1日だけで白昼夢のようなもの。
明日には霧散してしまう。
いっそふがいない政治にでも介入してやろうか。
独裁者だから圧倒的な実行力でもって政治を動かすこともできる。
しかしそれもめんどくさい。専門知識もない。
私利私欲に走ってしまえば前任者のように
独裁者終了後の揺り戻しでこの国にいられなくなるかもしれないし。
「はあ……独裁者って意外と自由がきかないなぁ……」
祝日でも増やしてやろうか。
労働時間を強制的に短くしようか。
意味なく学校に銅像を建ててやろうか。
どれもこれもしっくりこない。
独裁者になれば何でもかんでも自由にできると思っていたが、
明日には一般人に戻るのでそうムチャはできない。
その前提があるとたいしたことはできなくなってしまう。
本当はもっといろんなことをやりたいのに……。
「……いや、待てよ。あるじゃないか! 独裁者を維持する方法が!!」
トイレで悩むこと2時間。
ついに自分のとっておきの独裁権の使い方を思いついた。
1日の時間は限られている。
すぐに国民へ自分の豪邸の建造を急がせた。
「われは独裁者ヤマーダなり!! 我がピラミット型豪邸をつくるのだーー!!」
独裁者の権力で国民を自分の豪邸づくりにすべて注がせた。
あっという間に作られた豪邸は周囲の森を伐採させるほどの敷地面積。
「では次に容姿の優れたものをこの豪邸にいれろ!
そいつらはすべてわれのメイドとなり昼夜働くのだ!」
モデルやグラビアアイドルなどが給仕する仕事につけられた。
断れば独裁権によりその場で射殺されるとなれば断れない。
「ようし、庭にはでかい犬を放て! 毛がふさふさなやつを!」
「冷蔵庫にたくさんのA5ランクの肉を貯蔵しろ!」
「プールと温泉とサウナを作るのだ! わっはっは!!」
今まであまたの独裁者がやろうとしてきて、
翌日一般人に戻ることの風当たりが怖くてできなかった身勝手。
それをなんのオブラートもなく実現させた。
まるで明日の自分を心配することもないように。
なぜならとっておきの秘策があるから。
あらゆる煩悩の根城となった独裁者の大豪邸。
それが完成したときには時刻はもう午後11時。
あとわずかで1日独裁者は終了し、自分は一般人に戻る。
秘策を使うタイミングが来たようだ。
「では最後の独裁権だ!!
これからこの豪邸を独立国家ヤマーダ帝国とする!!
そしてその国のリーダーは私となることを、
独裁権をもって認めるものとする!!!」
元の出身国における1日独裁権は消失した。
しかし、独立国家ヤマーダにおいて自分はなおも独裁者となった。
今度は1日ではない。
自分が死ぬまで永久に独裁権を振り回すことができる。
これが自分が思いついた最強の秘策だった。
「やったーー! これでずっと独裁者だ!!」
ヤマーダ帝国で自分は豪邸を手に入れ、美人に囲まれている。
庭にはプールとサウナと温泉とでかい犬がいる幸せ。
小学生男子が布団で夢想するしかなかったアイデアが、
今ここで、自分の手の中に完全なる実現を果たした。
「ヤマーダ帝国の独立にかんぱーーい!!」
乾杯をしようと冷蔵庫に向かった。
冷えたワインを取り出そうとしたとき、あまりのぬるさに驚いた。
「なんじゃこりゃ。あんなに入れてたのに冷えてないぞ?」
それだけではない。
プールには水が溜まっていないし、お風呂はお湯が出ない。
「なにかおかしい……一体どうなってる?」
電気、ガス、水道はすべてストップしていた。
すぐに会社に電話すると答えはあきらかだった。
『どうしてうちの国が、ヤマーダ帝国に水を渡さなくちゃならないんですか?』
「いやそれは……」
『あなたは独立国家でしょう?』
「か、金なら出す! それでいいだろう!?」
『ヤマーダ帝国の通貨ヤマダジンバブエなんて、国際通貨の価値ないです。
そんなお金を渡されても水もガスも電気もお渡しできません』
「そんな馬鹿な!?」
さっきまではこの世の楽園だったはずの独裁者の豪邸が、
いまや陸の孤島となってしまった。
ここにはもういられない。
あわてて豪邸から脱出をこころみる。
「おおーーい! 誰か! 誰か助けてくれ!
この国には川もない! 水もないんだ!
このままじゃ死んでしまう!!」
豪邸を一歩出たときだった。
「おい! 密入国者だ! 撃てーー!」
出身国の国境警備隊の容赦ない銃弾に身体は穴だらけになった。
独裁者の死亡により独立国家ヤマーダ帝国は解体した。
わずか1日の独立国家だった。
1日独裁者の悪用 ちびまるフォイ @firestorage
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