第6話

 人混みから脇に逸れ、貴族の馬車を通せるように規制された区画をカラカラと車輪が走る。


「――ご感想は? 『旦那様』」


 優雅に扇を揺らしていた女性は、カーテンを少し、開き、外の明かりを入れる。対面の席に座っていた、男の姿が浮かび上がった。

「初めて間近で見たけれど、やはりとても美しい子だった。見間違いじゃなかったな。気に入ったよ。ぜひ私の船に乗せて、愛でたいね」

「【青のスクオーラ】に使われる船は踏み込まれることもありませんものね。享楽三昧。一体あの子には幾ら散財するおつもりかしら。最近貴方の畑を荒らす仮面の殺人鬼がうろついているというのに」

「大丈夫。あんなものすぐに捕まるさ。なんせスペイン、フランス、神聖ローマ帝国の野蛮な三国の獣共が、王都を徘徊し始めたからね」

「その獣が貴方を嗅ぎつけなければいいですけど」

「多少嗅ぎつけたって海の上まで追って来れんさ。ましてや――我々【青のスクオーラ】に食いつくことなど、決して不可能なのだよ」

「油断なさってはいけませんわよ、兄上。美しい少年を見つけるとあなた、本当に見境なくなるんですから。強い毒を盛り過ぎて、もう死なせたりなさらないでね。仮面の殺人者のせいにして、うやむやに出来ましたけれど、そう何度も同じ手は使えませんわよ?」

「ああ、彼も美しかったのに本当に残念だ。あの媚薬は自信があったのに。だがいい実験台になってくれた。今度の子は必ず仕留めて手中に収めてみせるよ。見ていてくれたまえ」


 馬車は水路沿いに影を落としながら、やがて市街から離れて行った。








【終】

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