第5話 エルシオン王国で冒険者登録

「まずは、王国へ行くことにする。リオ、この指輪をつけるのじゃ。」


 雪が積もる森を抜け、私たちはエルシオン王国へと向かっていた。私は人間の姿に変化する魔法の指輪をリオに渡す。


「わー、これで僕も人間みたいになれるの?」


 リオの瞳が好奇心で輝く。ツノと赤い瞳は彼のチャームポイントだが、魔族だと一発でバレるので隠す必要がある。


「そうじゃ。これで安全に王国に潜入できるぞ。」


 私自身も指輪をはめると、長い銀髪は控えめな茶色へ変わり、魔族特有の瞳の輝きも消える。これで妾たちはただの人間の親子に見えるだろう。


 エルシオン王国は巨大な城壁に囲まれ、その門はまるで天空を突き刺すような威圧感を放っていた。門の石材は古代からの魔法で補強され、表面には複雑な紋様が浮かび上がっている。門番たちは鎧に身を包み、魔法の槍を携えながら仁王立ちしていた。


「リオ、ここからが本番じゃぞ。」


「ママー、あのおじさんたち、怖そうだね。」


「うむ。だが妾たちが平然としていれば、何事もなく通れるはずじゃ。」


 門番が無愛想に手のひらサイズの木板を差し出した。


「手をここに乗せろ。」


 手を乗せると、青い光がふわりと浮かび上がる。


「通行許可だ。身分証明がないから一銀貨で通れる。」


「ほれ、これでよいか?」


 銀貨を渡し、門を通過する。背後ではほかの旅人たちが足止めを食らい、門番に詰め寄られていた。


「なんと厳しい仕組みじゃのう……。」


 城門を抜けると、そこには活気あふれる王都が広がっていた。石畳の道には馬車が行き交い、露店からは焼き立てのパンや香辛料の香りが漂ってくる。色鮮やかな布や宝石が並ぶ商人の屋台に、子供たちがはしゃいでいる。


「おお……まさに異世界の王都じゃな。」


「ママ、あっちでお肉焼いてる!」


 リオが鼻をくんくんさせて指をさす。


「腹は後じゃ。まずは冒険者ギルドに行くぞ。」


 ギルドの扉を開けると、中には賑やかな光景が広がっていた。壁には無数の依頼書が貼られ、冒険者たちが武器を磨いたり、談笑したりしている。受付には美しい職員が立ち、手早く処理をこなしている。


「ママー、あのお姉さんきれい!」


「うむ。だが仕事が早そうなところも好印象じゃな。」


 そんな空気を突き破るように、筋骨隆々の男がこちらに歩み寄ってきた。その男、ガロックはギルド内でその名を知らぬ者はいないほどの実力者だった。だが、粗暴な振る舞いから敬遠される存在でもある。


「おい、子供連れが何しに来た! ここは遊び場じゃねぇぞ!」


 冒険者仲間たちがガロックを恐れるように目を伏せる中、妾は涼しい顔で彼を見上げた。


「なんじゃ、お主?妾には用がないゆえ、去れ。」


 軽くいなしながらリオを後ろに隠す。


「な、なんだと!?お前、何様だってんだ!?」


 顔を真っ赤にして拳を握る彼だが、魔力も戦闘気配も皆無だ。ただの雑魚だろう。


「全く、弱いくせによく吠えるのう……。仕方ない、優しく撫でてやるか。」


 私はゆっくりと手を上げ、人差し指を構えた。


「……この妾に手を出すとは愚かじゃのう。」


 パチンッ!


 デコピンが放たれると同時に轟音が響き、ガロックの巨体が宙を舞った。彼は後方のテーブルに激突し、皿や酒が床に散乱する。その衝撃でギルド内が静寂に包まれた。


「信じられん……ガロックが……」


「指一本で……なんなんだ、この人は……」


 冒険者たちが息を飲み、セリーヌに怯えた視線を送る。私は肩をすくめながらため息をついた。


「これでも加減したつもりじゃが……、まだまだ加減が難しいの。」


「ママー、今のすごかった!かっこいい!一瞬で吹っ飛んだよ!」


 リオが拍手を送りながらはしゃぐ。その様子を見て、私は微笑んだ。


 ギルド内の静寂を破るように、受付嬢が緊張しながら声をかけてきた。


「あ、あの……冒険者登録をご希望でしょうか?」


「うむ、登録を頼むぞ。」


 私たちはそのまま受付に向かう。


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 「ついにセリーヌが動き出す!? ……いや、ちょっと待って、それ解決方法としてどうなの!? 魔王親子の冒険は、予測不能な展開の連続です!次回もお楽しみに!」

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