第3話 新幹線で京都入り。そして、出雲2号へ。
陽子女史は20時9分発のひかり44号に乗込んだ。そして列車に乗り込むや否や食堂車へと向かった。週のなかびでしかも名古屋までの遅めの列車であるから、それほど客がいるわけでもない。食堂車には待つことなく案内された。
昼過ぎにそれなりのものを食べていたこともあり、今回は定食ではなくカレーライスを頼むことにした。食堂車と言えばこれと言ってもいいほどのメニュー。飛び抜けてうまいわけでもないが、不味いわけでもない。味がどうこうというよりも、走っている列車の中から景色を見たり車内の雰囲気を楽しんだりしながら食事ができることに、この場所での食事の価値がある。
程なく、カレーがやって来た。ライスとルーが別に盛られ、ルーをかけて食べる形の本格感あふれるカレーライスである。辛過ぎもせず、甘過ぎもせず。辛いものが苦手な人でも十分食べられるし、辛いもの好きな人でもこんなもの食えるかというほどのものでもない。かくも絶妙な落としどころに据えられたカレーである。
景色を楽しもうにも、外はもう真っ暗。食堂車の客もさほど多くない。特に相席を求められることもなく、列車は東へと向かう。
岡山を出たこの列車は、約1時間で新大阪に着く。そこから約10分もすれば京都である。彼女はカレーを食べた後、ビールを1本頼んだ。今から眠ってしまってもいけないし、かと言って眼が冴えても仕方ない。いろいろ考え事をしなくて済むようにするには、ビールでも飲んでクールダウンと行きたいところである。そうこうしているうちに、列車は新大阪に到着。彼女はビールをもう1本頼んだ。ほろ酔いのうちに、間もなく京都。彼女は座席に一度も行くことなく、食堂車で飲み食いしながら京都へと至った。
京都到着は21時29分。約1時間後に列車はやってくる。それまでの間、彼女は待合室で今度はワンカップを買って飲みつつ時間を過ごした。食堂車のビール2本とワンカップ1本も飲めば、結構いい調子。いろいろ考えるともなく考え、彼よりむしろここは自分自身の仕事の打合せのことも考えていた。
待合室の客数はさほどもいない。しかし、山陰から東京方面への列車であるというのになぜかこの列車、京都から東京までの利用客も多い。それもそのはず、22時30分に到着して列車の寝台で横になっていれば明日の朝6時25分には東京に着くのだ。悪くはない移動時間帯に設定されているというわけである。京都からの人だけでなく、大阪や神戸からの人も、新快速化新幹線に乗ってここまで来れば、朝6時半には東京に着ける。それも横になって寝て行ける。悪い話ではない。
午後10時半。出雲市から山陰路を辿って来た「出雲2号」は京都駅へとやって来た。これまでは赤い文鎮型のDD51型がけん引してきたが、ここから先は電化区間なので、ここで機関車が交代する。ここからは、EF58型電気機関車が東京まで牽引する。今時のブルートレインはPFと呼ばれるEF65型1000番台がけん引するものだが、この列車に関してはまだ、ブルートレインが走り出す以前からのひげ面の長い車体の青い機関車がけん引している。子どもたちの人気はもちろんPF型の引くヘッドマークも付けた列車に軍配が上がるが、なかにはこのEF58型を好む一種「通」ともいうべき鉄道趣味人もいないわけではない。
機関車が交換されている間、夜遅くにも写真を撮りにやってきている鉄道少年も何人かいる。中には、いい年の大人の姿も。だが彼女はあくまでも東京までの乗客としてここに来ているのであり、写真を撮るために来ているのではない。また、機関車の交換などを見ているほどのゆとりもない。
とにもかくにも、早く寝てしまおう。
彼女は早速所定の寝台に向かった。ちょうど乗客専務車掌が巡回してきた。乗車券と特急券を見せ、彼女は早速下段寝台の客となり、着替えて横になった。寝酒側に缶ビールをもう1本買っている。彼女はそのビールを寝台の角に置き、頃合いを見て栓を開けてゆっくりと一口半ほど飲んだ。世の中には列車が出発してからおもむろに栓を開けて飲みだす人もいるが、そこまで待つような気にもなれない。
機関車の交換も終えたようである。22時37分、列車は定刻で京都を出発。
彼女の寝台の向いにも、彼女のいる上の寝台にも、今日は相客はいない。これが10年も前ならこんな時期でもここまで少ないことは滅多となかったが、新幹線が完全に主役となってこの方、わざわざ関西から寝台で東京まで出るような客は昔ほどは多くなくなっているが、それでも中にはそのような移動を好む人もいる。
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