2話 南北の対立、関所攻防
此処は
帝国で切り出された
彼等の
その2階、窓から煙草を吸いながらだらしなく腕をついている男がいた。
40歳を過ぎ、髪も白くなりつつあるその男は、外の
彼はそれをうんざりした顔で眺めていた。
浅い川辺を挟んで北と南の将軍が陣を構えている。
まぁ、この建物で行われてる会議もやかましさは同じだったが。
この北と南両軍で行われた和平会議では誰もが自分の得になることを言い、他人の意見には全て反対し攻撃していた。
話し合われているのは両軍の速やかな
そして、お互いの関所を減らすこと。
必要のない場所を見つけ出す事が目的だった。
北の将軍、
※関所とは通行や物資の
さまがねは馬を売ったり、川の工事を
このくだらない関所の
物を売ろうとして外に出るだけで借金を背負う様なものだ、誰も陸路で商いをしない。
男がため息を吐きながら考え込んでいると、重い木のドアが開いた。
休憩の終わりにはまだ早い。
そんな熱心なのが居たかと不思議に思い振り返る。
すぐに表情が変わり、立ち上がって45度お
「お疲れのようですね」
優美な声が響く。現れた女性は細身の
着ている服には、下腹部辺りに太陽を描いた赤と金の大きな輪が横に並んでいて、重なっている部分には桜の花の
この模様をつけているのは皇族だけだった。
「はい、姫様。お気遣い、恐れ入ります」
名は
「誰かとお話しをしたい気分なんです。よければ相手を務めていただけませんか?」
「もったいないお言葉です。喜んでお付き合いさせていただきます」
近くにあった椅子を引き出し、小林を座らせる。
軽くうなずきながら小林は席につき、自分も腰を下ろした。
他愛もない話をするも、直ぐにやりきれなくなり再度煙草を吸い、煙を吐く。
この人の前では正直に全てを吐き出したくなる。
そんな
「終わりが見えませんね」
「ええ。ですので、次の手を打たせていただきました」
男は向き直った。相手の緑の目はこちらをじっと見つめていた。
「それは……?」
わからないという顔をしていたのか、小林は品のある微笑みを浮かべて説明した。
「将軍両名の話し合いでは解決が難しいと判断しました」
なので皇主の力によって解決をするとの事。
前日から既に使いの者を走らせている事。
今日の和平会議は中止になった事を教えてくれた。
夕暮れ時、はがね山の
陣の中には、戦争が始まる寸前の緊張感と
かがり火の前で
黒い髪の中に、
少し垂れた目尻が、歳と普段の人柄を表していた。
また、白と藍の組み合わせの着物に、革の帯を締めている。帯には山刀が差してあり、全体的に質素ながら気品が感じられた。
その男がイチハの父、トオルだ。
彼は風を自在に操る力、
トオルは兵士に歩み寄った。
兵士は警戒しながらも、彼の
「南の将軍、杵桐殿にお目通り願いたい」トオルの声は、風に乗って響き渡った
何度か兵士同士のやり取りがあり、山刀を預けた後で将軍であるきりぎねの前に通された。
「何の用だ、山の守り手よ」
トオルは
「皇主からの親書です。お読みください」
きりぎねは動かず、トオルの近くにいた兵士がそれ以上近づくなと警戒しながら書面を取り上げた。
兵士が目を通すと、その表情は驚きで
「なんだ?話せ」
きりぎねは兵士をにらみ急かした。
「は、はい。読み上げます。
我ら皇国の平和と
一、関所の即時撤去を求める。その管理及び運営は、皇族である小林阿宮が責任を持って執り行うものとする。
二、戦争による双方の不利益を避けるため、速やかに軍を撤退させること。
三、撤退に関する費用については皇国内で持ち出すことを許す。
なお、この命への返答が皇国の将としての
右、確かに承知されたし。
皇主」
きりぎねは面白そうだという余裕の表情で手を軽くあげた。
兵士は読み上げた書面をきりぎねに手渡す。
その時、きりぎねは何かを兵士へささやいている。
きりぎねはトオルへ向き直した後、口を開いた。
「さまがねにも、この書面を?」
「はい、北の将軍様にも今お読みいただいている所です」
トオルは冷静に続けた。
「皇主様はただ、無駄な争いを避けたいだけです。小林様が関所の管理を引き受けるなら、将軍殿の負担も減るでしょう」
「負担が減る?」
きりぎねは低く笑う。
「我々から利権を奪っておいて、随分と綺麗事を並べる」
「将軍殿」
トオルが言葉を継ごうとした時、きりぎねは歯を見せながら手を挙げた。
その瞬間、杵桐の背後にいた兵士たちが一斉にトオルに襲いかかった。
トオルは大きく息を吐くと同時に、両手を広げた。
突如、強烈な風が巻き起こった。
兵士5、6名が、まるで紙人形のように
間を与えず、残った配下が間合いを詰め剣を振り下ろす。
トオルはそれを紙一重でかわし、風の力で男を放り投げた。
きりぎねが静かに立ち上がる。
上段に構えた刀が
目にも留まらぬ速さで振り抜かれた一撃を、トオルは兵士が落とした槍を拾い上げ受け止めるが、その威力に地面を削りながら後退する。
きりぎねの剣が通った場所では、地面が深く
トオルが体勢を立て直した時、背後の空で光が弾けた。
青く輝く
「将軍殿」
トオルは静かに口を開く。
「相手はあなたを信じて下がっています。その背中を斬るおつもりですか?」
きりぎねは一瞬、トオルを見つめ、やがて刀を
「軍を下げろ」
配下たちが素早く動き出す。
トオルは深く頭を下げた。
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