8話:実況のメイヤさん!!
体をほぐしながらしばらく待っていると、女性が息を切らして走ってきた。
落ち着いた雰囲気の知的な人という印象だ。
淡い緑色のロングヘアーには、既視感がある。
でもどこで会ったんだっけか…
「ああ、やっとお会いできました!」
その一言だけで、この人が私に何かを期待してるのが分かって、つい警戒気味になってしまう。
「ど、どうも」
「あ!ご挨拶を忘れておりました!お久しぶりでごさいます、メイヤ・フォルディーヌと申します」
お久しぶり?
「えっとすみません、どちらでお会いした方でしたでしょうか」
「あ!そうですよね、あの試合の時に同じ場所に居ただけですものね。失礼しました!」
見た目よりそそっかしい人なのかもしれない。
メイヤさんが前髪の大半をヘアバンドで止めて、メガネをかける。
思い出した!アーシとの試合で実況をしてた女性だ!
「改めまして、お嬢様プロレスの実況解説、及び取材などを務めています、メイヤ・フォルディーヌです」
「マトです、よろしくお願いいたします」
淑女らしい綺麗な挨拶に、なるべく綺麗に挨拶で返す。
「思い出せなくて申し訳ありませんでした」
「いえいえ!実況をしている時とは格好が違いますし、先程申し上げたように同じ場所に居ただけの間柄では当然こと、こちらこそ失礼いたしました」
私とメイヤさんの間に、さっきメイヤさんを呼びに行ったおじさんが割って入る。
「メイヤ様とは仲良くしたほうがいいですよ!この街のお嬢様プロレスの広報担当でもあるんですから!」
もしかして『麗しき謎の令嬢レスラー』って変な通り名も、メイヤさんが付けたんじゃなかろうな。
「やだなもぅおっちゃん!『様』は付けなくていいって言ってるじゃんかぁ!」
メイヤさんが突然砕けた口調で喋りだしたのでビックリした。
「いやいやメイヤ様ももう貴族なんだから、いつまでも友達感覚じゃ他の人に示しがつかんでしょう!」
「お堅いねぇ~!その腹の肉くらい頭も柔らかくならないものかねぇ~!ワッハハハハ」
私とユニエはポカンとして2人の様子を眺めている。
「ああっ!失礼しました、マトさんとの会話の途中なのに!
」
「いえ、いいんですけど……随分仲が良さげというか……」
「メイヤ様は元々平民の出だったんですがね、取材の最中にとある貴族から一目惚れされて結婚して、そんで貴族になった経緯でして」
なるほど、それにしても突然の豪快キャラには驚いた。
「それで、私を探していたとか聞いたのですが」
「そうそう!そうなんです!颯爽と現れて、あのアーシ様に勝ち、今やお嬢様プロレス界の話題の的とも言えるマト様に是非インタビューをと!」
うへえ、そんな予感はしていたけど。
私が実は貴族ではないと知られれば、試合の前に処刑されてしまいかねない。
どこから素性を知られるか分からない以上、できれば沈黙を貫きたいけど……。
困った私は、会話の輪から少し離れていたユニエにチラリと目線で助けを求める。
「えー、あー!その、彼女は、その、あの」
目は泳いでいるし声は震えている。
そうなんじゃないかなとは思っていたけど、やはりユニエは
「ひ、秘密……そう!秘密兵器なんです!」
「お、おお?」
突然、妙な発言を自信満々でするものだからメイヤさんも気圧されている。
「マト様はアレグリッター姉妹との闘いのためにお呼びした秘密兵器令嬢!おいそれと情報をお渡しするわけにはいかないのです!」
「なんと!フォスタ家にそのような人脈があったとは露知らず!」
ユニエの挙動は相変わらず不審だが、気づいているのか
……今更だけどここまであからさまな挙動不審をされるくらいなら私が自分で嘘ついた方が良かったと思う。
本当に今更だけど。
「それは残念でございます!色々とお聞きしたい事があったのですが!特にあの華麗な動き、力強い技!私はマトさんの姿にかつてのお嬢様プロレス覇者、スターシャドウを思い出しました!」
「まあスターシャドウ様!かの方は現在どうしておられるのでしょうか」
「それが私の調査でも目撃情報すらなく……」
「それは心配です、あのような強き方が……」
よーわからんがすごいレスラーが姿を消しているらしい。
リングに潜む悪魔の仕業……だったりして。
「話が逸れてしまいましたね!能力や戦術についてお聞き叶わぬなら、せめてドレスだけでも情報が欲しいのですが!」
ドレス?
「そうでした!!ドレス!!」
ユニエがしまったという顔をして叫んだ。
「マト様!試合までにバトル・ドレスを仕立ててもらいましょう!メイヤ様ご質問ありがとうございます!ドレスのデザインが決まり次第資料はお送りしますのでそれでご勘弁くださいませ!さ、行きましょうマト様!」
ユニエがメイヤさんに一礼したあと、私を引っ張って駆け出す。
いやちょっと!一人で話を進めないでよ!バトル・ドレスってなんのこと!ねえ!
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