5話:登場!最強!?アレグリッター姉妹!!

 試合が終わり、魔導士たちが粛々しゅくしゅくとリングや機材などを元の世界へ返還へんかんしていく。


 決闘騒ぎが収まったダンスホールではあるが、まだ決着が済んだわけじゃない。

 決闘に敗北した者はきちんとした『処分』を行わなければならない。

 今回の場合は、アーシ・アレグリッターが衛兵たちの見届けの上で自身の悪事を認め、私とユニエに謝罪するという処分となった。

 それだけ?と思わなくもないけど、『謝罪』という行為に対する重さは日本と西洋では大きく違うと聞いたことはある。

(まあここは西洋じゃなくて異世界だけど)


 敗北したアーシは、顔を歪めてうつむいていた。

 その歪み方は悔しさや無念さというより、『おびえ』。

 この後に確実に来る『強大な不幸』を確信したような、そんな表情だった。



 実況とレフェリーがアーシに謝罪を促すと、アーシが恐る恐る謝罪の言葉を口にしようとする。



「ご、す、も、申し訳……」


 そこまで言った所で、場内に喝を入れる声が響く。


「「アーシィィィィッッッ!!!!!」」


 その場にいた全員が声の方向を見ると、3人の女性がずかずかと入場ゲートから向かってくる。

 私達の周囲を囲んでいた貴族たちを強引に押しのけ、入ってきた。


 アーシは、自分を呼ぶ声に背を丸めて縮こまっていた。

 どうやら彼女は、姉達に怯えていたようだ。


「あの人達って……」


「『アレグリッター家』の……つまり、アーシ様のあねたちです!」



「ね、姉様がた。お、お、お許しを……」


 震える声で謝罪するアーシ。

 しかし姉の1人が、そのアーシの腹をトーつま先キックで蹴りつけた。

 オエッと苦しんでうずくまるアーシの頭を、さらに踏みつけて床に押さえつけている。


「ひどい……!」


 さっきまでアーシにいびられていたユニエでさえ、そんな言葉を漏らす。

 私も同じ気持ちだ。


 ユニエが言うには、アーシを上から踏みつけだしたのは3女の『ララフェイド』だそうだ。

 黒に近い、こげ茶色でストレート系の髪。

 アーシと同じかほんの少し高い身長をしている。


「やってくれたなぁアーシよぉ、おいィ!ソヴェラ姉様が築いてくだすったアレグリッター家の名声に泥かけやがってよォ!」


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


 もはやアーシが試合前にとっていた態度がウソのようだ。


「お止めください!安易に暴力を振るうなど淑女しゅくじょのなさる事では……!」


 我慢できずユニエが止めに入る。


「外野が口出しすんじゃねぇョ!!」


 深く鋭い眼光をしたララフェイドの威嚇いかくに、ユニエの踏み込んだ足がすくむ。


「あらあら外野だなんて、彼女は被害者なのよ、。決闘の結果そう決まってしまったのだから、そこは認めないと、ねぇ」


 三女ララフェイドをなだめるのは、次女レイデ。

 女性としては異様なほどガッシリした体格。

 ララフェイドより明るい、栗色のふわっとした髪をしている。



「小さな羽虫でも目の前を飛べば潰したくなる気持ちは分かるわ、ララフェイド。でも潰すなら黙って潰しなさいな。いちいち騒いでは羽虫と同格になってしまうわよ、オッホホホホホ……」


 穏やかそうな口調で喋ってはいるが、その言葉選びから彼女の傲慢さはイヤでも伝わってくる。




 レイデの耳につく笑いを聞いていると、私の視線の外から何かが飛んでくるのを感じた。

 私は危険を察知し、上半身を反らして『何か』をキャッチする。

 キャッチしてから気づいた、『アーシからの決闘宣言で、自分は学習してなかったのか』と。


 取ってしまったのは……やっぱり手袋だった。

 投げたのは……長女ソヴェラだ。


 ララフェイドとレイデの中間ほどの身長、体格。

 レイデよりさらに明るく赤に近い、鮮やかな髪色。

 妹2人と並ぶと半端なように見えるが、その『圧』は、ハンパない。


「受け取ったのだな」


 さっきまで唇をギュッとしめていた彼女が、ニタリと笑った。

 ショックで手袋を落とすと、手袋は3枚重なっていた。


 3人分の、挑戦状だ。


「姉様!」


「お姉様!やるんですのね!?」


 ソヴェラは、喜々とした表情の妹達に返事をせず、私をゆびさす。


「アレグリッター家の名に土を付けて、そのまま逃げおおせられると思うでない……」


 ソヴェラが低く威圧的な声色で、打倒マトを宣言する。


「我ら姉妹が、お前に敗北の味と埋まらぬ格差を覚えさせてやろう!」



 その宣言に、レイデとララフェイド、そして実況さんや周囲の貴族たちが湧きたつ。


『なななーんと!アレグリッター姉妹の残り3人が!お嬢様プロレスにて国内最強と言われるアレグリッター家が!たった今!謎の令嬢マトに対し、決闘宣言を行いましたー!!波乱!まさに波乱です!!』



「ククク!姉様がた!もちろん次の相手はオレにさせてくれるんでしょうなァ?」


 ララフェイドがお嬢様とは思えない舌なめずりをして、姉たちに聞いてくる。


「ふふふ……あたくしは別によろしくってよ!叩きのめしてあげなさいな!ねえ、お姉様?」


 レイデはそう答えて、ソヴェラの方を向く。


「好きにせよ。……アーシの謝罪は、この闘いの決着まで持ち越しとさせてもらうぞ」


 ソヴェラはそれだけ言って口を閉じる。

 しかしその口の端は大きく歪み上がっていた。


 衛兵たちは少々文句ありげだが、口にはしない。

 それだけ、アレグリッター家は権力を持っているということなのか、な。




『では次回!マトVSララフェイド・アレグリッターの試合については、追って魔導士様との予定を合わせていきましょう!皆様、ぜひご期待くださいませー!!』


 実況さんのその一声にわっと歓声があがり、みんなが撤収していく。



 ……ん?あれ?

 え、ちょっと待って?

 ってことは、死にたくなかったら、この姉妹全員にプロレスで勝たないといけない。ってこと?

 国内最強とか言ってなかった?

 嘘でしょ?私、いつになったらプロレスから離れられるの?



 ああ、元の世界に帰りたい……。

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