第8話 惨敗妹のその後。


 5分ほどすると、しおんは「はぁはぁ」と肩で息をしはじめた。


 「だっせ。息上がってるじゃん。運動しねーからだよ」


 「うるさいっ。豚野郎は人間の言葉を発するな」


 なにこいつ。

 兄に向かって、口悪すぎだろ。


 それから更に数分すると、しおんの顔は真っ赤になってきた。なんか怒ってる?


 俺は、ため息まじりに声をかけた。


 「大丈夫? もうこんなどーでもいい勝負やめよーぜ。俺の負けでいいからさ。おまえ、熱でもあるんじゃないの?」


 俺は、落ち着きなく動き続ける紫音の腰を左手で抱き寄せて固定すると、右手でしおんの髪をかきあげ、額と額をくっつけた。


 「ん。熱はなさそうだな……」


 数センチの距離で目と目が合った。

 なぜか、しおんの目は泳いでいた。


 そのまま、右手のひらで紫音の頬にも触れた。


 「頬は熱いな」


 すると、しおんはビクッとして、肩をプルプルっと震わせると、口をパクパクさせた。


 「だめ。そんなんされたら、イ、イ、イッ……」


 俺は聞き返した。


 「イッ? なに?」


 しおんは、ハァハァしながら言った。


 「颯太……チュウ。チュウして……」


 しおんが唇を近づけてくる。

 我が妹ながらに形の整った唇……なんて思いながらも、俺は紫音を全力で押し戻した。


 すると、しおんの頬はムギュって押されて、潰れた風船のようになった。


 その時、おれはようやく気づいた。

 コイツ、盛大に自爆して自分が盛ってるんじゃないか?


 ここは兄としてビシッと言ってやらねば。


 「なぁ。おまえ、発情してね? 繁殖期の野生動物じゃないんだからさ。兄貴に欲情すんなよ」


 (パチンッ!!)

 

 次の瞬間、視界に火花が散った。

 右頬がカッカとあつい。全力でビンタされたらしい。


 しかし、まだ気になることがある。

 それもビシッと指摘せねば。


 「なぁ。しおん。なんか下腹のあたりが湿っぽくて冷たいんだが……」


 するとしおんは、「えっ……」と素の声に戻り、自分の股間のあたりを見て、目をパチクリさせた。


 そして、俺のTシャツを一気に剥ぎ取ると、全力ダッシュで、部屋の出口に向かった。


 いや、パンツまで貫通してて、まだ冷たいんだけど……。これってあれだよね。


 「もしかして、おまえ、しお……」


 (ドカッ!!)


 本気で蹴られた。


 「へんたい! くず! 豚! ごみ! しね!」


 しおんは言いたい放題言うと、ドアを勢いよくしめて、走り去った。


 なんなのアイツ。

 それに、さりげに混ざってた豚ってなんだよ。


 おれ別に太ってねーぞ。



 数秒後、ダダダダッという足音がして、またドアが開いた。そして、しおんが顔だけ出した。


 「クッ、コロ……」


 それだけ言うと、しおんは、またドアをバタンと勢いよく閉めた。


 「……は?(笑)」


 あいつ、ほんと。

 なんなんだよ。


 だからアイツ嫌なんだよ。


 理解不能すぎるんだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る