祝福の雪解け

明日葉いお

祝福の雪解け

 人里離れた山の上。さびれたお城がポツンと建っていました。

 お城の中には氷の少女が一人。

 呪いで氷にされた彼女は、国が滅びても氷のまま。

 そんな彼女の冷え切った心を映し出すように、お城の周りはいつも雪が降っていました。

 何かに触れると消えてしまう雪で、積もることもありません。


 ある日、お城に一人の少年がやってきます。

 少年の村は日照りで苦しんでおり、井戸も枯れてしまいました。

 少年は、村のみんなを助けるため、不思議な雪の言い伝えにすがり付いたのです。

 触れられない雪に少年は落胆しましたが、氷の少女を見つけて喜びました。

 これだけの氷があれば、村のみんなの喉の渇きを癒せる。そう思ったのです。


 少年は少女を抱きかかえて、村へと向かいます。

 村への道中、少年は少女に語り掛けます。

 なぜなら、少女の顔はとても悲しそうだったからです。

 少女は、少年の思いやりにとても嬉しく思いました。

 しかし、氷の姿では話せません。

 何もできない自分と一緒に居てくれることを少女は喜びました。

 ですが、氷の姿では笑うこともできません。

 せめて、自分の周りに降る雪が、少年の喉をうるおせれば良いのに。

 そう思いますが、雪はやはり消えてしまいます。


 森を抜けて、村が見え始めたころ、少年はふと寂しく思いました。

 ちらりと少女を見ると、悲しそうに顔を歪めている少女。

 少年の頬を一筋の温かなものが流れます。

 それが氷の少女にこぼれ落ちると、彼の温かさに触れた少女は水になってしまいました。

 少年は呆然とします。

 我に返って、村のみんなのために水をすくおうとしますが、少女だったものは地面に吸い込まれて既にありませんでした。

 温かなものが再び少年の頬を流れます。

 一筋、また一筋と流れるそれに、少年は天を仰ぎます。

 とめどなく降り注ぐ温かな雨の雫。

 少年の涙は、冷めきった少女の心を温めました。

 その結果、少女の降らす雪は解け、雨となったのです。

 恵みの雨に、歓喜の声が村からあがります。

 少年は、その雨が少女のものと気付き、とても悲しくなりました。

 歓喜の声を遠巻きに聞きながら、少年は踵を返します。

 少女の居たお城に、彼女の残滓ざんしがあると思ったのです。

 雨となった少女は、少年を癒せることを嬉しく思い、初めて笑えたような気がしました。

 しかし、雨の姿では笑えませんでした。

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祝福の雪解け 明日葉いお @i_ashitaba

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