第13話

 配信タイトル:

「ホドさんの旅路 #5 チーター死すべし」

#翠雪花SUISETTKA #戦闘幼女



「さて、こいつどうしよう」


 画面に映る敵―― Lv1Prowessという名のプレイヤーキャラは不自然な挙動を繰り返している。

 カメラが追いきれないほどの速度で瞬時に移動し、空中では重力を無視したように飛び跳ねる。攻撃モーションも通常より短く、常識外れの性能を見せつけていた。



 とりあえず敵の情報を整理する。

 まず、歩きと走りのスピードが速く、跳躍の挙動もおかしい。

 パリィ不可、体力ゲージ増加。

 魂魄ゲージ無制限といったところか。


 しかもなんか戦っててラグがあるし、煽り、チーター、ラグの三冠タイトル取っちゃってる。


 敵の攻撃は連続で降り注ぐ。通常なら防げるタイミングでも、こちらの攻撃がラグで遅れてしまう。明らかに接続状況を悪用しているのが分かった。


「うーん、なかなかに終わってんなぁ……」


 これじゃあ、技の検証と研究もできないじゃん……

 俺がネット対戦しようと思った趣旨から外れるけれど――こいつはここで叩き潰さなければならない。


 :すごい、怒ってる顔も可愛い(洗脳済み)

 :怒ってるというより、ホドちゃん笑ってね?

 :嗚呼、なんか分かる……


 あれ、笑ってたか。

 うーん、まあ今回はチーターとはいえ、よくよく考えてみるとAIではないボスみたいなもんだし……


 そう考えると――


「こいつ、もしかしなくとも……氷の剣聖より弱いよな」


 :いや、あの爺さんに勝てるわけねえだろ!

 :ホドちゃん以外、いまだに討伐報告されてないからな

 :東 宗一郎とかいうNPC……あれは何かのバグだ


「形態変化も無いし、体力削れるし……普通に勝てるじゃん!」


 なんだぁ、チーターだから身構えて損した。


 :その理論はおかしい

 :おれさ、煽りラグ持ちチーターよりホドちゃんの方が戦いたくないわ

 :なんか……わかる


 えー、そんなこと言うなよ……



 まあとりあえず分かったことは、こいつは人間が操作するボスだ。

 しかも、爺さんみたいにプレイスキルが上手い訳じゃない。


 ならば……


「お前ら、俺が戦い終わるまでまだこいつ通報するなよ? 検証してみたいから」


 :かわいそうに……

 :ワイ将、初めてチーターに同情する模様


「なぁに、悪いようにはしない。ただ……こいつには地獄を魅せるって決めたんだぁ」


 それにしても、まだ屈伸すんのかこいつ……

 いやぁ……


「これは熱烈にぶっころしたくなるなぁ〜」


 :いけませんホドちゃん、そんな汚い言葉!

 :わ、わぁ……幼女からこんな明確な殺意が出てんの俺見たことねえよ……!

 :笑ってるのが尚更怖い。



 パリィ不可、結構。

 お前――相殺って知ってるか?


 すっごく難しいが、理論上どんな技でも、反撃可能なんだ。


「ほぉら、こんな簡単に『合わせ』られちゃって……」


 :だから、なんで狙って出せるんだよ!

 :合わせって凄い有効な反撃ですね、初心者の僕でも使えるでしょうか……

 :むりむりむり!! 狙って出せるやつなんて人間数段辞めてるって!!



 回避、反撃。

 ディレイとフェイントに釣られちゃって……

 やっぱプレイスキルは初心者に毛の生えた程度か。


 ヒットアンドウェイも、あの狼とさほど変わらない程度。


 攻撃もわざと隙を作ってるのかと思うくらい無駄なタイミングで撃ってくるし……


 :にしても、こいつ……こんなボコボコにされてまだ煽ってるのすごい根性だな

 :もはや尊敬――は出来ないけど

 :なんでこんな根性あるのにチーター煽りカスなんてやってんだろ


 画面上では、ついに敵の体力が赤ゲージに突入した。


 しかし、こいつ本当に弱いし煽るしで……

 流石にイラついてきたな。


 なんで戦闘中煽るんだよ……


「おーけおーけ、そんなにアピールしたいのね。よろしい……ならば、天誅だ」


 一旦距離取って、霜華陣を仕込んでおく。

 闘技場の氷の結晶で上手く予備動作を隠したからおそらく敵視点からは見えにくいだろう。


 継続的なダメージと、雪刃を相手の隙に捩じ込む。


 あのいぬっころと違って技は少なからず効くようだし……いい感じ。


 画面には、赤ゲージに突入した敵の体力バーが映し出されている。敵プレイヤーは相変わらず奇怪な挙動を繰り返しながら、こちらを煽るように屈伸を続けていた。

 しかし、こちらの冷静なプレイに敵の攻撃が次第に空回りし始める。


「さて、じっくり仕上げようか」


 ゆっくりと呼吸を整えるようにコントローラーを握り直す。

 霜華陣がじわじわと敵の体力を削っていく様子に、一瞬だけ満足げな笑みを浮かべ、再度敵の位置を把握。


 敵はまた跳躍して距離を詰めてくるが、その動きは単調だ。予備動作も分かりやすく、反撃のタイミングは無限にある。


 霜華陣の範囲に誘導するように、ステップで敵を翻弄する。画面上では氷の結晶が輝き、範囲内に入った敵の動きが一瞬鈍くなった。


 :霜華陣えぐいな

 :もう敵の逃げ場ねぇじゃん

 :こんなに綺麗に誘導できるの……化け物だな……


 敵が攻撃モーションを繰り出した瞬間、ホドはわずかにステップを後ろに踏み、反撃の準備を整える。そこから瞬時に「雪刃」を発動――まるで氷の刃が敵の隙を正確に捉えるように切り込み、敵の体力ゲージがさらに減る……





 はずだった。


 刹那……雪月花の一つ、花系統の「技」を突如として発動し敵の体力が回復する。


 隠し持っていたと言うべきか……今まで使ってこなかったのかと思うと――

 どうしようもなく腹が煮え繰り返った。


「は?」


 ふざけんな……




「おまえ……もしかして手加減してた?」



 ――敵はピンポイントで地雷を踏み抜いた。

 俺が最も嫌う行為……手加減。


 研究のための手段としてあえて泳がすという意図はあったりするが、こいつは十中八九違う。


 こいつは……相手を煽るためだけにやっている。


「は、はは……このあばずれ、舐め腐りやがって!!!」


 :ホドちゃんの何かが切れた……

 :触らぬ狂気に祟りなし

 :あーあ……




「ぶっころす! 全て出し尽くさせてこいつはぶち殺す! 生きて帰れると思うなよ!」



 :え、こわい……今のホドちゃんの低いがなりごえ、すっごいこわい

 :もうだめだ、おしまいだぁ……

 :ピー音、誰かピー音つけて!

 :まあでもホドちゃんの悪口なんか、癖になるよね……

 :↑上にとんでもない癖のやついるって……

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