みみず

鐸木

みみず

気をおかしくする暑さだった。陽炎がふらふらと揺蕩って、私の視界が揺れているのかと錯覚した。私は呆然と歩いていた。何か、苦しい事があったような、無かったような気がする。頭上に靄がかかり、何もかも判然としない。茹だるような暑さが、ただそこにあるだけだった。均一のリズムで鳴く蝉が、いつかの葬式で聞いた木魚に似ている。母の葬式だったが、幼過ぎたあの頃の私には心底どうでも良く感じて、木魚の単調なリズムを子守唄に、微睡んでいた。あの現実と夢とが入り混じる感覚が、蝉の鳴き声によってはっきりと思い出された。思い出したからって、どうって事はないのだけれど。

また、日が落ちた。狂気じみた橙色が世界を染めた。肌を照りつける日差しにも、気狂じみた執着を感じる。だから夕焼けは嫌いなんだ。触発されてこっちまで頭がおかしくなる。私の左右に立ち竦む田園も、橙に染まり、稲穂が首を垂れた所に日差しが照りつけていた。永遠に同じ風景が続いている様な気がした。私は一体、何処に向かうのだろう。 

ふと、足元を見ると、のたうち回るみみずがいた。地上へ出てきたばっかりに、渇望した陽の目をみて、死に抗うみみず。それを取り囲む蟻の群れ。ぐにぐに身体を動かし、半狂乱のまま、暫くしてみみずは動かなくなった。蟻たちが無惨にも死体を運ぶ様を、夕陽が煌々映し出している。諦めた様に死に抗うのを辞めたみみずの姿は、今の私の心情によく似ていた。

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みみず 鐸木 @mimizukukawaii

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